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猫族のG-戦略

なぜ猫はこれほどまでに人と共存しているのか。生物の進化の法則と絡め、個人的な見解も含めて考察してみました。

生物の進化

生物は自分の子孫を後世に残すために、環境に応じてゆっくりと進化を続けてきました。500万年前、アフリカ大陸にサバンナといわれる乾燥した草原地帯が出現。快適に暮らしてきた森にそのまま残るチンパンジーと新たな土地、サバンナに出るチンパンジーに分かれ、後者の好奇心と探究心が強い冒険心のあるチンパンジーが後々のヒトの祖先になったといわれています。好奇心と探究心は進化の源なのです。そして生き残るために状況対応できる頭脳を進化させ、私たちヒトは生まれました。

子孫反映戦略

生物もいろいろです。魚はとにかく多くの子どもを作って、そのうち何%かが残れば良しとする多産多死戦略を取りました。生態学で「r-戦略」と呼び、その戦略の生物は早熟で世代交代の期間が短くなります。一方、ヒトは子どもが独り立ちできるまで長い年月がかかるようにし、親が丁寧に確実に育てようとする少産少子戦略、「k-戦略」を取りました。子育て期間は生き残る術を学ぶチャンスであるため、その期間を長くすればするほど学習機会が増え、生き残る確率が高くなります。

脳科学的には、頭脳が形成され始める幼少期は好奇心が強くいろいろ学ぼうとします。その分吸収力が高く、言語能力を始めとする他の動物には無い様々な能力が備わるようです。子どもっぽい特徴を持った未熟な脳部分、前頭連合野が発達したサルがヒトになり、長い年月をかけて未成熟な前頭連合野を大人たちが育てることにより、超知性である自我などを正しく形成でき、複雑な社会生活を生き残る術を身に着けることができるのです。

※上記は扶桑社文庫「平然と車内で化粧をする脳」脳科学者の澤口俊之先生&南伸坊さん著を参考にさせていただきました。平然と〜の理由は日本人がその脳に合わない欧米文化を受け入れていることが主な原因と解説していますが、長くなるので割愛します。ご興味ある方は最新脳科学が詰まった理解しやすい、目からウロコの一冊をぜひお読みください。

生物の進化・猫の場合

前提が長くなりました。さてネコはその中間にあるヒト寄りの生き残り戦略を選択し、1回の出産で平均3~5匹を産みます。そして生後半年後には子離れし、出産できる身体になります。それは野良猫としてヒトと関わり合いながら生き、今より短命だったころの遺伝子が選択した生き残り戦略と思われます。そして今も継続しています。

さて、ここ数十年の間に、力関係で生き残りを争う野良猫暮らしから、完全室内飼いでヒトの家族の一員として穏やかに暮らす猫が増えてきました。それ故、日本の猫は数十年のうちに平均寿命を約2倍の15~16才に伸ばしています。

ふふふっ、そうなのです。猫族は知らぬ間に人族に可愛がられ、安全に生き残る戦略にシフトし始めたのです。可愛い仕草をしたり、にゃ〜にゃ〜と鳴いたりすれば人族が、「きみは可愛いですねぇ~」と赤ちゃん言葉で語りかけながら、美味しいご飯をくれることを理解し始めました。さらには上手く家に住み込みさえすれば、一生不自由なく食べて暮らせることも知りました。そして人族の頭脳を利用し、猫族にとって栄養バランスの良い、長生きできる餌を開発させることにも成功しています。そうです、猫族は人族を思い通りに動かす自らの能力に気づき、安全で長生きできる生き残り戦略、「G-戦略(ゴロニャン戦略;造語)」を選択するようになったのです。

血統猫族の目論見

一方、猫族の中には人族の好みに変化した一族もいます。美しい豹柄、丸っこい顔、ふさふさでゴージャスな毛並み、おとなしい性格などなど、人族の母性愛や父性愛につけ込み始めた猫たちです。そうして人族に資金をつぎ込ませ、自らの遺伝子をブリーディングさせる「血統猫族(造語)」が誕生しました。血統猫族は産まれる時も常に人族の庇護を受け、充分な栄養あるご飯を食べられるようになりました。

十数年前、血統猫族は一族をさらに日本で繁栄させるため、猫好きの中から選んだ人族の頭脳の隙間に入り込み「猫カフェ」を作らせました。私も会社員時代に営業中、不意に猫族に頭脳を侵された一人です。果たして猫カフェは、2010年代、和歌山電鉄貴志駅のたま駅長が火付け役となった空前の猫ブームにうまく便乗でき、血統猫族の可愛さを多くのメディアで人族にアピールすることに成功しました。

一方、野良生活や多頭飼育崩壊等から安全で快適な完全室内飼い生活への促進を図りたい「家猫族(造語)」も負けてはいませんでした。以前からある「保護猫シェルター」などに加え、シェルターと同様に猫好きで慈愛に満ち行動力の優れた人族の中から選抜し「保護猫カフェ」をも作らせました。現在メディアをも大きく動かし、その勢力は拡大しています。

猫族を取り巻く課題

進化過程で大成功を収めたかのように見える猫族ですが、まだまだ課題もあります。G-戦略に移行し、平均年齢が急激に上がったものの遺伝子がその変化についていかず、出産数が過剰になって家飼い猫の受け入れ先が不足しています。飼育管理の怠慢から許容範囲を越えた飼育頭数となって起こる「多頭飼育崩壊」。金銭の魔力に取り憑かれた人々による、猫の健康や幸せを無視したブリーディング問題。犬より住居を汚すとの誤解から、猫を飼える賃貸物件がほとんどないという住宅問題。失業や離婚、高齢などの家庭環境変化から派生する飼育放棄問題。多くの問題が複合し、保健所で殺処分されてしまう猫たちも少なくありません。

(猫に悩殺されたりもする)ヒトですが、脳の前頭連合野が担う自我や社会的知性、感情的知性の高さが他の哺乳類とは異なりズバ抜けています。それらがヒトをヒトたらしめているのですが、猫族の複雑な問題をうまく解決することができるに違いない、唯一の地球上の生物であることは確かです。前述の澤口先生曰く、特にモンゴロイド(黄色人種)である日本人は、脳の前頭連合野が他のコーカソイド(白色人種)やネグロイド(黒色人種)と比較し未熟で大きい分だけ、長期間の大人たちによる「しつけ」が必要なようです。その分、多くを学び前頭連合野が他人種より複雑に発達するそうです。そのしつけ期間に動物愛護のあり方をしっかり脳に刻み込むと、猫にも優しい人間になるのではないでしょうか。そして、猫族の複雑に入り組んだ諸問題も、モンゴロイドの大きく柔軟な頭脳が平和的に解決する方法へと導いてくれるはずです。

さて当店ですが、気付けば、猫族の心地よい暖房寝具として「ヒト族の安心できるお膝」の製造(提供)を知らぬ間に担わされていました。ヒト族も猫族の暖房寝具になることにより、ビジネスや日常生活などで産出された大量のストレスを緩和できます。寒くなる毎年10月ごろから翌年のGWにかけては、特に多くのお膝がにゃんずの幸せなお昼寝のために提供されます。当店にお越しのお客さまには「無心で静かに待てる乗りやすいお膝」として、正しい暖房寝具を目指していただいています。

庄 知宏@
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