野良メインクーン現る?
「マンションの敷地内に4〜5日前からメインクーンがいる。帰る様子もないのでみんなでご飯をあげているけれど、明日から大雨だし保護してもらえないだろうか」。当店に電話相談あったのは今から1週間前。なんでも、その猫はマンションの茂みを寝ぐらに、敷地内を自由に歩き回っては道行く人々に可愛がられているのだとか。
迷子だろうか。遺棄だろうか。いずれにしても、人の手で作り出された長毛種、野良猫で生きていくには過酷すぎる。きっと毛玉もノミもすごいに違いない。メインクーンやノルウェージャンは今人気の大型猫だから、ビジュアルに惹かれて飼ったものの手に負えないとか、繁殖猫の退役とかの理由でそろそろ捨て猫に登場してもおかしくないかも…など、悪い想像をしながら、預かり先やシャンプー&カットを手配しつつ現場へ急行した(猫の保護は段取りが大事である)。
小綺麗な低層マンション前には犬を含め、心配して集まった数人のギャラリー。そんな状況にも関わらず、メインクーン氏はエントランス脇で大きな両手を投げ出し、堂々と寝そべっていた。
必殺「ちゅ〜る」を見せて呼んでみると、のっそりと出て来た。撫でてみると、背中一面が酷い毛玉でゴワゴワのドレッド状態になっている。うーん。ますます高まる捨て猫疑惑。放浪も数カ月は経っているだろう。抱き上げようとすると怒るそうなので、お皿にちゅ〜るを絞り出してキャリーの中へ置いた。するとメインクーンは何の躊躇もなく入ってくれた。そのまま上板橋のペットサロン「Happy-spore」さんへ。すでに21時を回っていただろうか。スタッフの皆さんが待っていてくれた。
毛玉がすごすぎてバリカンの歯がなかなか入らない。皮膚を傷つけないよう、慎重に慎重に刈っていただき、仕上がったのはもうミッドナイトをとっくに過ぎていた。Happy-sporeの皆さんにただただ感謝。この日は遅いので、メインクーン氏にはキャッツイン東京保育園に一泊してもらった(実はこの時点ではノルウェージャンだろうということになっていたのだが)。
メインクーン氏の旅は続く。
翌日は検査入院のため、品川の「猫の診療室モモ」へロングドライブ。獣医師の先生にちゃんと診ていただき、去勢していることもわかり、元飼い猫であることは確実となった。長いこと手入れもされていないし、もしかして探していないのだろうか…。
いろいろ想像していたのだが…
マイクロチップが入っていた。
すぐにマイクロチップのデータ情報を管理する「動物ID普及推進会議(AIPO)」事務局(日本獣医師会内※)へ電話をし、情報の照会を行った。個人情報になるため、所有者情報は一切教えてもらうことはできない。所有者に連絡が取れた場合にはこちらの連絡先を伝えてもらうことになり、事態を見守ることになった。
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程なくしてメインクーン氏の飼い主さんから連絡が。
本名「ルイくん」、2011年生まれの7歳。
2週間前に中板橋の自宅窓を自分でこじ開けて逃走。飼い主さんは自宅を中心にあちこち探していたが、大きくて目立つからすぐ見つかるだろうと、ネットや張り紙、届け出などはまだ行っていなかったという。主に半径50メートルを目安に探していたとのこと。我々がSNSで発信していた情報も飼い主さんには届いていなかった。
ちなみに自宅のある中板橋と、発見された常盤台1丁目の間には、夜間でも車の往来の激しい片側2車線の幹線道路「環七」がある。トラックなどの大型車両の通行も多く、とても危険な道路なのだが、ルイくんはそこを横断したことになる。考えただけで身の毛がよだつ。無事で本当に良かった。
毛玉代でトリミングが8万円に!
飼い主さんに、毛玉がすごくてたったの2週間の放浪には見えなかった旨を伝えたところ、「凶暴ですぐ咬んだり引っ掻いたりするから怖くてブラッシングも爪切りもできてなくて…」。キャリーに入れるのも難しくて、病院やサロンに行くのもなかなかできなかったとかなりお悩みだった模様。そんなわけで、やっと連れて行ったサロンでは毛玉料金でエクストラチャージがかかり、なんと8万円の請求がきたそう。
Happy-sporeさんでは途中から口輪も外したほどおとなしかったのに、猫かぶっていたのだろうか…。保育園でもいい子だったし、頭撫でるとスリスリしてきたのに。確かに腰回りを触ると「う〜」と怒っていたけれど。なんでも、おばあちゃんは指を咬まれて貫通するケガを負い、2歳のお嬢さんはほっぺたに穴があいたことがあるのだとか…。
赤ちゃんもいるので、「大丈夫ですか?一緒に暮らせますか?」と意思の確認をしたけれど、笑顔で「大丈夫です!」とのお返事だった。ご夫婦とも本当に嬉しそうだったので、めでたしめでたし。脱走防止対策と早めのサロン通いを提案して見送った。それにしても、マイクロチップの効力を実感した出来事となった。
マイクロチップについて
誤解されていることが多いが、マイクロチップに収められている情報は15桁の登録番号のみ。個人情報自体はAIPOに登録されている。所有者や住所、電話番号、メールアドレスなどに変更があった際は速やかに情報の更新手続きを行わないと、せっかく入っているマイクロチップは威力を発揮できないのだ。
ペット用のマイクロチップにはいくつかの規格があり、日本で統一して流通しているものはISO11784/5に準拠しているFDX-Bというもの。起動周波数は134,2kHz、コード体型は15桁の数字。ISO非準拠のマイクロチップはマルチリーダーを除きISO準拠のリーダーでは読むことはできない(AIPOでの登録もできない)。
15桁の番号のうち最初の3桁が日本国番号392、次の2桁が動物コードで、猫を含むペットは14、続く2桁がメーカーコードである(日本では12社が販売)。写真のマイクロチップリーダーに示されている番号は、日本(392)のペット(14)で共立商会(30)のチップを使用していることがわかる。
所有者に連絡がつかない場合
AIPOでは登録情報に基づき電話やメールで所有者にコンタクトするが、連絡がつかない場合は書留を送る。書留には「1週間以内に連絡がなければマイクロチップの登録情報を書き換えるので了承するように」といった内容が書かれるとのこと。つまり、だいたい10日〜2週間程度で新しい飼い主の名前に上書きされることになる。ただし、これは所有権の移転にはならないため、並行して保護から1週間以内に警察署に拾得物として届け出を行う必要がある。届け出が受理されてから3カ月経っても飼い主が名のり出なければ、新しい飼い主の猫となる。
※動物ID普及推進会議(AIPO)は、マイクロチップによる動物個体識別の普及推進とデータ管理を行う組織。英文名のAnimal ID Promotion Organizationの頭文字をとりAIPO(アイポ)と略称する。日本動物愛護協会、日本動物福祉協会、日本愛玩動物協会、日本獣医師会の4団体で構成されており、事務局は日本獣医師会内にある。
(出典・取材協力:動物ID普及推進会議(AIPO)事務局)