約15年前、こんなナレーションで始まるCMがあった。
「民子が忘れられない」
ほの暗い部屋の中、小さな文机に向かって原稿を書く小説家と、傍らには猫。
美しい弦楽器の旋律が流れるなか、淡々としたナレーションですすむ印象的なCMだった。
マルハペットフード創立10周年を記念して制作されたもので、2000年9月~2001年3月まで放映された。原作は浅田次郎氏。原稿用紙1枚に綴られた物語である。
まるで映画のようなCMだったので、覚えている方も多いだろう。

売れない小説家の唯一の読者だった飼い猫の民子が、小説がようやく売れ始めた頃、行方不明になってしまう。探しても、見つからない。
ところが、長編小説の仕上げにかかっていた寒い夜、民子が突然、現れる。そして、小説の最後の10枚を読み、「最高よ、おめでとう」の言葉を残して、再び消えてしまい、二度と戻ることはなかった…。

「民子」表紙

『民子』(浅田次郎作/2001年9月30日初版/角川書店/現在絶版)

この印象的なCMはその後、書籍化され、それがこの『民子』である。

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約15年前、こんなナレーションで始まるCMがあった。
「民子が忘れられない」
ほの暗い部屋の中、小さな文机に向かって原稿を書く小説家と、傍らには猫。
美しい弦楽器の旋律が流れるなか、淡々としたナレーションですすむ印象的なCMだった。
マルハペットフード創立10周年を記念して制作されたもので、2000年9月~2001年3月まで放映された。原作は浅田次郎氏。原稿用紙1枚に綴られた物語である。
まるで映画のようなCMだったので、覚えている方も多いだろう。

売れない小説家の唯一の読者だった飼い猫の民子が、小説がようやく売れ始めた頃、行方不明になってしまう。探しても、見つからない。
ところが、長編小説の仕上げにかかっていた寒い夜、民子が突然、現れる。そして、小説の最後の10枚を読み、「最高よ、おめでとう」の言葉を残して、再び消えてしまい、二度と戻ることはなかった…。

「民子」表紙

『民子』(浅田次郎作/2001年9月30日初版/角川書店/現在絶版)

この印象的なCMはその後、書籍化され、それがこの『民子』である。
民子が小説家や原稿用紙を見つめる目、小説家が民子にふれる時の手のやさしさ、そして浅田氏による文章。小説家と民子の深い信頼の情が伝わってくる美しい物語だ。

「民子」1

『民子』より

「民子」2

『民子』より

「民子」3

『民子』より

『民子』には、猫好きで知られる作家浅田次郎氏に原作を依頼、制作にこぎつけるまでの裏話も記されている。浅田氏から制作陣に送られてきた原稿は、3本あったそうだ。どれも素晴らしい内容だったというが、ディレクター、プロデューサー、監督の3人一致で選んだ作品が「民子」だった。
本書では、浅田氏から送られてきた手書きの原稿「民子」の他に、「ポスト」「キャラとトモコ」も収められており、読むことができる。

また、『民子』は浅田氏の体験から書かれたものであると説明されているが、あまりにファンタジックな内容なので、“経験に基づく創作”だとばかり思っていたのだが、先日、これが“本当の話”であることがわかり、驚いた!
浅田氏のエッセイ『勇気凛凛ルリの色~四十肩と恋愛』を仕入れたので、パラパラと読んでいたら、その最初の章「禽獣について」に「民子」の話が出ていたのである。

「民子」4

『勇気凛凛ルリの色~四十肩と恋愛』(浅田次郎著/2000年3月15日初版/講談社)より「禽獣について」