感染症シリーズも後半です。最後は「猫から人間にうつる感染症について」を2回に分けてお話しします。これまでの記事(その①・その②・その③)をお読みいただくと、より理解しやすいと思いますのでよかったらご覧ください。
人獣感染症とは
「動物から人間にうつる感染症」があることはご存知の方も多いかと思います。動物から人へ、人から動物へと病原体が感染する病気のことですね。「人獣共通感染症」または英語では「ズーノーシス」と呼ばれます。
大げさな名前がついているので、狂犬病やとかエボラ出血熱とか、ニュースでしか聞かないような病名を連想しませんか?しかし、おうちの猫ちゃんから、または、近所をお散歩している猫ちゃんから、うつってしまう病気も多々あるのです。今回はそんな病気についての対策をお話しします。
人獣共通感染症の種類
まず、人獣共通感染症にはどんなものがあるのでしょうか。実は検索するとすぐに一覧が出てきます。東京都福祉保健局が、わかりやすくリスト化してくれているんですね。
例えば普通に過ごしていて、猫から狂犬病をうつされることはまずないだろうと、皆さん推測できると思います。しかし狂犬病ウイルスは「すべての哺乳類に」感染するので、猫も一応リストに載っています。実際は日本では60年くらい発生していないので、日常生活で猫の狂犬病対策を行う必要はないと言ってよいでしょう。しかし諸外国ではまだ普通に流行している地域もあるので、海外旅行の際は注意が必要です。
また、日本は外国から様々なものを輸入しているので、その際にコンテナに紛れ込んできた小動物が狂犬病を持ち込む可能性はゼロではありません。日本でも、犬には狂犬病予防接種が法律で義務付けられています。このように、動物は可愛いだけではなく、病原体の運び屋になってしまうこともある、ということだけは忘れずにいてください。
噛まれたり引っかかれたりしてうつる病気
日常生活で猫からうつる可能性のある病気としては、「猫ひっかき病」「パスツレラ症」などが代表的です。これらは猫の口内などに常在している細菌が原因で起こります。
猫に噛まれたり引っかかれたりした経験のある方はご存知かと思いますが、猫から受けた傷はなかなか厄介で、かなり腫れたり熱をもったりして、数日間痛みます。微熱が出てだるくなることもあります。この時、実は「猫ひっかき病」や「パスツレラ症」になっているかもしれません。病院に行かずに治っている方も含めると、おそらく年間数万人は罹患していると推測されます。
ちなみに、猫ひっかき病は傷の近くのリンパ節が、パスツレラ症は傷の部分が腫れるのが特徴的な症状です。ご高齢の方、糖尿病などの基礎疾患のある方では重症化して死亡例もあるので、おかしいなと思ったら病院に行きましょう。
夏場に注意したい感染症
もっと身近な人獣共通感染症もあります。特に夏場に猫さんの皮膚を襲う「ノミ」「ダニ」「カビ」です。
①ノミ・・・草むらなどに普通にいます。1mくらいはジャンプできるので、室内に侵入することも。
②ダニ・・・猫と人間の共通感染症になるのは、ヒゼンダニという皮膚にトンネルを掘って住み着き強烈なかゆみを起こすものです。
③カビ・・・皮膚糸状菌という水虫菌の仲間が代表的です。
これらを防ぐには、ノラネコを撫でたら石鹸で手を洗う、皮膚病にかかっていそうなノラネコには触らないようにすることです。おうちの猫に感染してしまったら、もちろん猫の治療と、家の中の隙間という隙間を徹底的に掃除しましょう。
その他にも多数の共通感染症がありますが、健康な大人の場合、「ノラネコを触ったら石鹸で手を洗う」「おうちの猫に病気が見つかったら、適切な治療をする」ことでほとんどのものは防ぐことができます。注意が必要な人は、先程挙げたご高齢の方や基礎疾患のある方、その他には、姙娠している方と乳幼児のお子さんです。
公園の砂場も注意
小さいお子さんで注意が必要なのが、公園の砂場。砂場はノラネコにとって最適な「トイレ」なのです。外で暮らしている猫の糞の中には、回虫などの寄生虫の卵がある可能性があり、これが稀に人間に移ってしまうことがあります。特に幼児では貧血、微熱などの症状が起こることがありますので、砂場で遊んだ後は、絶対に手を洗うようにしましょう。
それから妊婦さんでは「トキソプラズマ」という原虫による流産が有名です。これは飼い主さんからのお問い合わせも多いので、次回ピックアップしてお話ししようと思います。感染症シリーズは次回で最終回の予定です。
<アーカイブ>
▶︎猫の感染症予防について、獣医師がぶっちゃけます! その②
▶︎猫の感染症予防について、獣医師がぶっちゃけます! その③
著者:谷口史奈
感染症シリーズも後半です。最後は「猫から人間にうつる感染症について」を2回に分けてお話しします。これまでの記事(その①・その②・その③)をお読みいただくと、より理解しやすいと思いますのでよかったらご覧ください。
人獣感染症とは
「動物から人間にうつる感染症」があることはご存知の方も多いかと思います。動物から人へ、人から動物へと病原体が感染する病気のことですね。「人獣共通感染症」または英語では「ズーノーシス」と呼ばれます。
大げさな名前がついているので、狂犬病やとかエボラ出血熱とか、ニュースでしか聞かないような病名を連想しませんか?しかし、おうちの猫ちゃんから、または、近所をお散歩している猫ちゃんから、うつってしまう病気も多々あるのです。今回はそんな病気についての対策をお話しします。
人獣共通感染症の種類
まず、人獣共通感染症にはどんなものがあるのでしょうか。実は検索するとすぐに一覧が出てきます。東京都福祉保健局が、わかりやすくリスト化してくれているんですね。
例えば普通に過ごしていて、猫から狂犬病をうつされることはまずないだろうと、皆さん推測できると思います。しかし狂犬病ウイルスは「すべての哺乳類に」感染するので、猫も一応リストに載っています。実際は日本では60年くらい発生していないので、日常生活で猫の狂犬病対策を行う必要はないと言ってよいでしょう。しかし諸外国ではまだ普通に流行している地域もあるので、海外旅行の際は注意が必要です。
また、日本は外国から様々なものを輸入しているので、その際にコンテナに紛れ込んできた小動物が狂犬病を持ち込む可能性はゼロではありません。日本でも、犬には狂犬病予防接種が法律で義務付けられています。このように、動物は可愛いだけではなく、病原体の運び屋になってしまうこともある、ということだけは忘れずにいてください。
噛まれたり引っかかれたりしてうつる病気
日常生活で猫からうつる可能性のある病気としては、「猫ひっかき病」「パスツレラ症」などが代表的です。これらは猫の口内などに常在している細菌が原因で起こります。
猫に噛まれたり引っかかれたりした経験のある方はご存知かと思いますが、猫から受けた傷はなかなか厄介で、かなり腫れたり熱をもったりして、数日間痛みます。微熱が出てだるくなることもあります。この時、実は「猫ひっかき病」や「パスツレラ症」になっているかもしれません。病院に行かずに治っている方も含めると、おそらく年間数万人は罹患していると推測されます。
ちなみに、猫ひっかき病は傷の近くのリンパ節が、パスツレラ症は傷の部分が腫れるのが特徴的な症状です。ご高齢の方、糖尿病などの基礎疾患のある方では重症化して死亡例もあるので、おかしいなと思ったら病院に行きましょう。
夏場に注意したい感染症
もっと身近な人獣共通感染症もあります。特に夏場に猫さんの皮膚を襲う「ノミ」「ダニ」「カビ」です。
①ノミ・・・草むらなどに普通にいます。1mくらいはジャンプできるので、室内に侵入することも。
②ダニ・・・猫と人間の共通感染症になるのは、ヒゼンダニという皮膚にトンネルを掘って住み着き強烈なかゆみを起こすものです。
③カビ・・・皮膚糸状菌という水虫菌の仲間が代表的です。
これらを防ぐには、ノラネコを撫でたら石鹸で手を洗う、皮膚病にかかっていそうなノラネコには触らないようにすることです。おうちの猫に感染してしまったら、もちろん猫の治療と、家の中の隙間という隙間を徹底的に掃除しましょう。
その他にも多数の共通感染症がありますが、健康な大人の場合、「ノラネコを触ったら石鹸で手を洗う」「おうちの猫に病気が見つかったら、適切な治療をする」ことでほとんどのものは防ぐことができます。注意が必要な人は、先程挙げたご高齢の方や基礎疾患のある方、その他には、姙娠している方と乳幼児のお子さんです。
公園の砂場も注意
小さいお子さんで注意が必要なのが、公園の砂場。砂場はノラネコにとって最適な「トイレ」なのです。外で暮らしている猫の糞の中には、回虫などの寄生虫の卵がある可能性があり、これが稀に人間に移ってしまうことがあります。特に幼児では貧血、微熱などの症状が起こることがありますので、砂場で遊んだ後は、絶対に手を洗うようにしましょう。
それから妊婦さんでは「トキソプラズマ」という原虫による流産が有名です。これは飼い主さんからのお問い合わせも多いので、次回ピックアップしてお話ししようと思います。感染症シリーズは次回で最終回の予定です。
<アーカイブ>
▶︎猫の感染症予防について、獣医師がぶっちゃけます! その②
▶︎猫の感染症予防について、獣医師がぶっちゃけます! その③
著者:谷口史奈