第七話
Subject: 【報告】六角形
From:nyantama@silvervinekingdom.org
Date:2014/04/02 12:55
To:king@silvervinekingdom.org
シルバーバイン王国
親愛なるにゃんこ大王殿
エンジニアのにゃんたまです。
連絡が滞ってしまいまして、申し訳ありません。日本の東京という場所で暮らし始めて、はやいもので2年になりました。
シンプルかつ連結できるパネルとは
斜めに差し込むことのできる構造についてずっと考えました。パネルとパネルを横に差し込む、すなわち、90度に組み合わせるのではなく、もっと30度とか45度とかの鋭角に差し込めるようにすることで、後からでも足せるのではないかと考えていました。しかし、構造がどんどん複雑になります。
仮に連結できたとしても、連結しないときのデザインが悪くなってしまうのです。例えば、連結しない端の板に、極端な出っ張りができてしまいます。連結してもしなくても、おしゃれでなければなりませんし、そもそも複雑な構造というのは、強度的に弱い部分を生んでしまうので、ネコが乗って遊ぶ製品としてはふさわしくありません。
「シンプルで、かつ、鋭角に平面充填できる構造」ずっとこのことを考えていました。
パンタグラフから得たヒント
ある日のことですが、大崎駅のホームで、入ってきた電車を眺めていました。電車の屋根には、パンタグラフと言って電気を架線から取り入れる装置があります。ひし形の形を潰したり張り出したり、変えられるようにすることで、少し電車と架線の距離が近づいたり遠ざかったりしても、離れることのないようにする装置です。
このパンタグラフが、120度くらいで開いていました。「120度に開いているということは、……」と、一人でつぶやいていたとき、ふっとひらめきました。
「六角形か」
これまでは、基本の多角形は四角形と三角形ばかり考えていましたが、六角形を基準として作っても、組み合わさるし、同じように頂点を中心に出っ張りと引っ込みを作ればシンプルにできるのではないか。
辺の数が奇数である三角形のプレートを作りたいから、わざわざ辺の途中で、出っ張りと引っ込みを作らないといけないのです。六角形ならば、辺の数が偶数ですから、辺そのものをでっぱり、引っ込みにすれば良いではないか。
慌ててホームでそのひらめいた図形をメモして、さっそく事務所に戻って模型を作りました。
作った結果は大成功です。これまでにないシンプルさと、かみ合う面積の大きさも十分です。
木材でも作ってみました。ムウさんの評価も上々です。この形だけですから、これまでのように、三角形と四角形というように二種類のパーツを作る必要がありません。後から考えると、偶数角形である四角形のタイルで思いついたことなのですが、三角形を連結しないといけないという先入観から遠回りをしてしまったようです。
ついにパネルの基本の形ができました。
しばらくはこの方向で開発を進めたいと思います。
物流センターのちょび髭
先日、ムウさんに「にゃんたまは左遷されたの?もうシルバーバインに帰れないのだったら、ミーと一緒になればいいのに」と言われてビックリしました。ムウさんは私がこの国に派遣された経緯を物流センターのちょび髭から聞いたようです。
慌てて、ちょび髭にこれ以上言いふらさないでいて欲しい、特にミーには言わないようにとお願いに行きました。すると、ちょび髭は、口止め料として、またたびを200本も要求してきたのです。そんな取引には応じられません。
「おまはんがレーザー砲を作ったんやてな。かつての大戦の英雄さんや。でもあのレーザー砲が途中で大爆発を起こしたおかげで、すっかり森は焼けてもうて、白猫族が平気で入ってこられるようなってもうた。わしらブローカーにとったら、国境があいまいになって密輸しやすくなったから感謝感謝やわ。でもな、白猫族に追われたシルバーバインの森のネコたちは皆あんたを恨んどるけどな。ははは」
と、吐いて去っていきました。私が責任を取って、こちらに赴任していることは、できれば知られたくなかったのですが、仕方ありません。
愛をこめて にゃんたま
P.S.「まねきねこ」という人形を送ります。こちらの国では、ネコは良いものを引き付ける力があると信じられています。結局、人間はネコのことが好きなのだと思います。
著者:にゃんたま
【アーカイブ】
第一話・第二話・第三話・第四話・第五話・第六話
写真⑥:渡部久
第七話
Subject: 【報告】六角形
From:nyantama@silvervinekingdom.org
Date:2014/04/02 12:55
To:king@silvervinekingdom.org
シルバーバイン王国
親愛なるにゃんこ大王殿
エンジニアのにゃんたまです。
連絡が滞ってしまいまして、申し訳ありません。日本の東京という場所で暮らし始めて、はやいもので2年になりました。
シンプルかつ連結できるパネルとは
斜めに差し込むことのできる構造についてずっと考えました。パネルとパネルを横に差し込む、すなわち、90度に組み合わせるのではなく、もっと30度とか45度とかの鋭角に差し込めるようにすることで、後からでも足せるのではないかと考えていました。しかし、構造がどんどん複雑になります。
仮に連結できたとしても、連結しないときのデザインが悪くなってしまうのです。例えば、連結しない端の板に、極端な出っ張りができてしまいます。連結してもしなくても、おしゃれでなければなりませんし、そもそも複雑な構造というのは、強度的に弱い部分を生んでしまうので、ネコが乗って遊ぶ製品としてはふさわしくありません。
「シンプルで、かつ、鋭角に平面充填できる構造」ずっとこのことを考えていました。
パンタグラフから得たヒント
ある日のことですが、大崎駅のホームで、入ってきた電車を眺めていました。電車の屋根には、パンタグラフと言って電気を架線から取り入れる装置があります。ひし形の形を潰したり張り出したり、変えられるようにすることで、少し電車と架線の距離が近づいたり遠ざかったりしても、離れることのないようにする装置です。
このパンタグラフが、120度くらいで開いていました。「120度に開いているということは、……」と、一人でつぶやいていたとき、ふっとひらめきました。
「六角形か」
これまでは、基本の多角形は四角形と三角形ばかり考えていましたが、六角形を基準として作っても、組み合わさるし、同じように頂点を中心に出っ張りと引っ込みを作ればシンプルにできるのではないか。
辺の数が奇数である三角形のプレートを作りたいから、わざわざ辺の途中で、出っ張りと引っ込みを作らないといけないのです。六角形ならば、辺の数が偶数ですから、辺そのものをでっぱり、引っ込みにすれば良いではないか。
慌ててホームでそのひらめいた図形をメモして、さっそく事務所に戻って模型を作りました。
作った結果は大成功です。これまでにないシンプルさと、かみ合う面積の大きさも十分です。
木材でも作ってみました。ムウさんの評価も上々です。この形だけですから、これまでのように、三角形と四角形というように二種類のパーツを作る必要がありません。後から考えると、偶数角形である四角形のタイルで思いついたことなのですが、三角形を連結しないといけないという先入観から遠回りをしてしまったようです。
ついにパネルの基本の形ができました。
しばらくはこの方向で開発を進めたいと思います。
物流センターのちょび髭
先日、ムウさんに「にゃんたまは左遷されたの?もうシルバーバインに帰れないのだったら、ミーと一緒になればいいのに」と言われてビックリしました。ムウさんは私がこの国に派遣された経緯を物流センターのちょび髭から聞いたようです。
慌てて、ちょび髭にこれ以上言いふらさないでいて欲しい、特にミーには言わないようにとお願いに行きました。すると、ちょび髭は、口止め料として、またたびを200本も要求してきたのです。そんな取引には応じられません。
「おまはんがレーザー砲を作ったんやてな。かつての大戦の英雄さんや。でもあのレーザー砲が途中で大爆発を起こしたおかげで、すっかり森は焼けてもうて、白猫族が平気で入ってこられるようなってもうた。わしらブローカーにとったら、国境があいまいになって密輸しやすくなったから感謝感謝やわ。でもな、白猫族に追われたシルバーバインの森のネコたちは皆あんたを恨んどるけどな。ははは」
と、吐いて去っていきました。私が責任を取って、こちらに赴任していることは、できれば知られたくなかったのですが、仕方ありません。
愛をこめて にゃんたま
P.S.「まねきねこ」という人形を送ります。こちらの国では、ネコは良いものを引き付ける力があると信じられています。結局、人間はネコのことが好きなのだと思います。
著者:にゃんたま
【アーカイブ】
第一話・第二話・第三話・第四話・第五話・第六話
写真⑥:渡部久