先月、東京・吉祥寺で「猫の雑貨と古本市」という催事をしていた時のこと。
「へぇ、猫の本ばっかり?」と言いながら、ひとりの男性が古本市のワゴンに近づいてきた。60歳代くらいだろうか、普通のサラリーマンという雰囲気とはちょっと違うムードをまとっている感じの方だった。
そしておもむろに、「ジャズ狂のことを《jazz cats》って言うの、知ってる?」と。
猫の写真やイラストを使ったレコードジャケットが数多くあることを、知ってはいた。
しかし、《jazz cats》という言葉は知らず、そう答えると、「ジャズには猫のジャケット、いっぱいあるんだよ。ジャズ、聴く? そう、じゃ、今度探して聴いてみてよ」と言い、右手をスマートにすっとあげると、振り向きもせずに去って行ってしまった…。
ほんの1分ほどのやりとり。
こうしたイベントで、飼い猫や猫写真集などの話で盛り上がることはよくあるのだが、「音楽と猫」の話になったのは初めてだった。
そして古本市を終えた頃、ふと思い出し、《jazz cats》を検索してみたところ、いくつかの説明が出てきた。
英和辞典的には、《cat》のやや古いスラングとして「ジャズ狂」「ジャズメン」と言うこと。
また、ブログや知恵袋などにもいくつか書かれており、それらを総合すると、「《cat》はジャズミュージシャン、広くはジャズ狂を意味するアメリカのスラング。どうしてそう言われるようになったのか定説はないようだが、よく言われるのは、猫が集会するように、夜な夜なジャズクラブに集まり、気まぐれに演奏することからきているのではないか」ということのようだ。
なるほど。
ジャズは好きで、以前はよくライブにも行ったのだが、リズムを刻む感じ、音に身を任せる感じは、犬より断然、猫!だと思う。夜な夜な集まっては、リズムと音に身を任せてセッションするジャズミュージシャンや観客たち。確かに、猫、かも。
ジャズの猫ジャケを探していたなかで、妙に惹かれる1枚があり、さっそく購入し、聴いてみた。トミー・フラナガンやジョン・コルトレーンらによる『THE CATS』。ジャズ史に残る名プレイヤー、大御所であるふたりがまだ20代の頃の作品で、軽やかで優しげな演奏が気持ちいい。録音は1957年。ジャズ喫茶全盛の頃は、このピンクの猫ジャケがよくかかったそうである。
ジャズからは少々離れるが、さらに猫ジャケを探していたら、『ねこみみ~猫と音楽』という本に行きついた。
これも取り寄せて読んでみると……あるわ、あるわ。猫ジャケ、猫ソング。
思わず、商売っ気が出て、猫ジャケCDも集めて取り扱いたくなったが、いやいや、猫本古本屋としてまだまだ未熟な身なのに、そんな大それたことを…。まずは本業の古本屋をしっかりやることが先であるし、音楽は音楽として楽しむことにしよう(と、自分を戒め…)。
古本市に偶然やってきた方との、なにげない会話。もう2度と会うことはないであろう、こういう出会いは、古本市などのイベント出店のおもしろさのひとつである。
彼はいったい何者だったのだろう。実は有名なジャズマンだったりして…。