相談内容
猫を7頭飼っています。離婚したため配偶者はおらず、子どもは息子が一人いるだけです。私が死亡したら生命保険が1400万降りるはずなのですが、受取人がその息子になっています。これを一部を除いて、万一の時は猫たちを引き取ってくれることになっている保護団体などに、猫の持参金として渡したいと思っています。
また、所有する不動産は同じく保護団体などに猫のシェルターや里親募集型保護猫カフェ、ノラ猫病院などとして利用してもらいたいと考えています。揉めることなく、確実に残せる方法はどのような手段があるのでしょうか。
回答
まず、生命保険金の受取人については、保険会社に連絡を取ってください。親族でない第三者でも保険金の受取人になることができます。一部を親族に、その他を第三者へということも可能です。ただし、保険会社はあまりやりたくはないようですね。実際、この制度を利用した保険金殺人事件などが起きていますので。
猫たちに財産を残す方法は、若干マイナーな手段を含めて複数あります。一番一般的なのは、遺言を書く方法です。
「単純遺贈」と、「負担付き遺贈」という方法があります。
◆単純遺贈
単純遺贈は、条件なしに不動産等を遺贈することです。相手方を信じて行う場合です。「私はAさんを信用して猫を預けるのですから、財産を遺贈することについて条件なんか付けません」という場合です。
このやり方は非常にシンプルで、特に問題は発生しません。
◆負担付遺贈
負担付遺贈は、相手方に何かをやってもらう代わりに、財産を遺贈します、という方法です。不動産等をAさんに遺贈しますが、その代わり、猫の世話をしてもらいます、と書く場合などがそうです。この場合は、どのような世話をしてほしいか、できるだけ細かく具体的に書きます。
負担付遺贈は、遺贈を受けた者(Aさん)が、遺言を書いた人(甲さん)が指定した行為を行わないと、相続人から遺贈を取り消されます。
そして、世間では、猫の世話を条件とした負担付遺贈は、相続人の攻撃のターゲットとなることが極めて多いです。「なんで猫のために金やるんだ?猫なんか保健所に引き取ってもらえばいいだろう。猫に金やるんだったらこっちへ寄こせ」と言い出だす相続人が非常に多いです。
さらに、相続人は難癖つけて、家庭裁判所に負担付き遺贈の取消の申立をします。「Aさんは約束どおりの猫の世話を全然やっていない。なので負担付き遺贈の取消を申請します」と。
ですから、甲さんは、Aさんに頼む行為を具体的に遺言書に書いておく必要があります。獣医師による定期的な血液検査等のチェックを受けるのか、ケージに入れるのは良いのかダメなのか、里親を探して譲渡してよいのかダメなのか等々。
相続人の攻撃から守るためには、「自分はこのとおり、死んだ甲さんの指定どおり、ちゃんと猫の世話をしています」ということを示す必要があります。
例えば、甲さんの指定が、「明らかに病気をしていると外見から分かる場合や、餌を食べなくなったり、動かなくなったりした場合は、獣医師の診察を受けてください。そうでない場合は、目視により機嫌良さそうにしていいれば、それでよいです」という内容であったならば、Aさんは、それまで定期的に撮った猫の画像や動画、現在の猫の画像や動画を見せれば、相続人の攻撃を排斥することができます。「ほら、私はちゃんと甲さんの言ったとおりのことをやっていますよ」と。
◆トラブルの多い自筆の遺言書
自筆の遺言書はお勧めできません。「これ、お母さんの字じゃない」など、相続を争う相続人とのトラブルが頻繁に起きています。多少費用がかかっても公証役場で作ってください。また、証人は、公証役場にお願いして、公平中立な第三者になってもらうのがお勧めです。本人の知人でも証人になれますが、相続を争う相続人から「こいつがボケたお母さんをそそのかして公証役場まで連れて行って遺言を書かせた」などとクレームを言ってくることがあるからです。
回答者:弁護士 林太郎
編集部より
遺言書の作成には主に以下の方法があります。
①弁護士に依頼
②行政書士に依頼
③司法書士に依頼
④信託銀行・会社に依頼
⑤自分で作成(自筆・捺印)
作成料金は遺産の額と依頼内容や依頼先にによりますが、数万〜数十万程度の手数料がかかります。自分で書き、証人2名も用意すれば安く作成できますが、内容に不備があると猫にお金が残せなくなってしまうほか、偽装を疑われトラブルに発展することが多々あるようです。
作成した書類は、公正役場にて公正証書にすると原本が保管されるので偽装や偽造の心配もなくなり、死後の遺産処理がスムーズになります。遺産をめぐってのトラブルが予測される場合や、猫に確実に遺産を残したい場合は、まずは専門家に相談してみるのが良いかもしれません。