東京都立川市に事業所を構える有限会社オリエンタルフーズは、主に法人向けのお弁当製造と配達を手掛けている地元密着型の会社です。そんな同社が創業30周年の節目を機に、初めて一般向けにリリースすることになった「福ねこ弁当」。ご覧の通りお弁当箱そのものがかわいらしい猫モチーフで、黒猫・三毛猫・キジシロの3種類が用意されています。
お弁当箱のフタに描かれている猫たちのイラストは単なる柄違いではなく表情が少しずつ異なり、それぞれ中身のメニューも変えているというこだわりぶり。発表以来「どこで買えるの」という問い合わせが殺到しているこちらのお弁当ですが、実は社長さんがご自宅で一緒に暮らしているという元保護猫たちがモデルとのこと。さっそく同社へ足を運んで誕生のエピソードについてお話を伺うことにしました。
「当社は先代の個人事業から始まった日配の弁当給食サービス会社で、おかげさまで無事故で創業30年を迎えることができました。ただ、お客様には『美味しい』と言ってもらえているものの、他との価格競争や食に関して選択肢が増えたことなどもあり、今後の先行きについては懸念もありました。そんな中、東京都による中小企業向けのサポートプログラムを受けて新規事業を始めることにしたのがそもそものきっかけです」そう話して下さったのは、代表取締役を務める櫻井英雄さん。
はじめは会社のある東京・多摩エリアの名物を使った弁当を作ってはどうか、という方向性もありましたが、これといって魅力的な名物があるわけではなく、広く評価されるものを作るのは難しい。でも作るお弁当の味には自信がある。そんな中で「お弁当の器にこだわってはどうか」という話になり、部長さんが「猫がモチーフの器にしてみては」と提案。同社は猫が好きな従業員も多く、櫻井さんも3匹の保護猫たちと暮らしていたため、そのアイデアを採用して彼らをモデルにした「福ねこ弁当」の開発が始まりました。
これまで猫のイラストが描かれたお弁当箱はあっても、形そのものが猫というお弁当箱はほとんど目にしたことがありません。まずはオリジナルのお弁当箱を作るにあたり、器の形やカラーリング、猫の表情など、デザイナーさんや工場が呆れるほどに何度も試作を繰り返したそうです。こうして出来上がったのが二段重ねのお弁当箱「雅(みやび)」「桜(さくら)」「蘭丸(らんまる)」の3種類。フタや割り箸を束ねるゴムバンドがちょうど猫の首輪のようになっていて、丁寧にひとつひとつ鈴までついているのも遊び心と魅力を感じますね。食べ終わった後のお弁当箱は、例えば小物入れやお菓子入れといった用途で再利用してもらうことも想定して作られています。
ちなみに蘭丸は実際には桜と似たグレーと白のトラ模様の猫だそうですが、お弁当箱では桜と分かりやすい区別をつけてプレミア感のある三毛猫のオスという設定に。雅と桜がやや大人向けの表情やお弁当の中身になっているため、蘭丸のお弁当にはチキンライスに唐揚げやミートボールといったメニューを盛り込み、表情も中身もやや子ども向けを意識したのだそう。
3つのお弁当には栄養バランスや彩りも考えて作られたメニューがぎっしりと詰まっていて、厚焼き玉子やオムライスの玉子焼きには肉球模様や「福」の文字をかたどった焼印も。こうした調理などは全て櫻井さんたちによる手作業で行われています。
せっかくなので、お弁当のモデルとなった猫たちとの出会いについても聞いてみることにしましょう。
「彼らと一緒に暮らし始めたのは2年前の秋頃です。インターネットの譲渡サイトを通じて保護猫団体から引き取ることになり、はじめは雅と桜の姉妹2匹を迎えるつもりで会いに行ったのですが、たまたま同じケージにいて仲良くしていた蘭丸を引き離すのはかわいそうになってしまって。結局3匹とも引き取ることにしました」
蘭丸は他の兄弟猫も先にもらわれていったため、ひとりぼっちにならないように気を遣って下さったのですね。それぞれの性格は黒猫の雅がおっとりした甘えんぼうで、桜は気まぐれながら櫻井さんに最も懐いている存在。蘭丸は保護以前の境遇のせいか、2年近く経った今も少し人間を怖がっていて、なかなか触らせてくれないといった一面もあるのだそうです。縁があって新しいおうちへと迎えられ、今も仲良く過ごしているという3匹の猫たちですが、こうしてお弁当のモデルになるとは思ってもみなかったことでしょう。
今はまだリリースしたばかりのため、販売店となるバイヤーの募集や催事での出店販売などを交渉・調整している段階とのこと。「ありがたいことに『購入できる場所を教えて』という問い合わせをたくさん頂いています。決まり次第ホームページやSNSを通じて発表していくので、もう少しお待ち頂ければ」と櫻井さん。
近々では7月15日と16日に東京都台東区の産業貿易センター台東館で行われるイベント「にゃんだらけVol.4」で販売するほか、9月には西武池袋本店や吉祥寺の中通り商店街での期間限定出店も予定しているそうです。販売価格は税別1500円。お弁当としてはやや高めと感じるかもしれませんが、見た目のかわいさだけではなくお弁当としてもしっかりと美味しい、そして食べ終わった後も容器を再利用できることを考えればとても魅力的ではないでしょうか。
「そう言ってもらえるのが一番嬉しいですね。ゆくゆくは都心部で『ここに行けば常に買える』という場所を設けられるようにしたいです」
そんな櫻井さんたちの思いとこだわりがたっぷり詰まった「福ねこ弁当」。3種類のうちのどれにしようか、食べ終わった後は容器をどのように使おうか。そんな葛藤に悩まされるのもまた、魅力のうちなのかもしれませんね。お忙しい中、取材にご対応頂きありがとうございました。
福ねこ弁当ホームページ
http://www.fukuneko.style/