2年ほど前、ある古書市でのこと。ひとりの女性が当店のワゴンに近づいてきた。

「あのぉ、ママ猫の古本やさんということは…猫の飼い方についての本、あります?」

はい、ありますよと何冊か取りだして渡したところ、その女性は「最近、猫を飼い始めた」といって話し始めた。

なんでも、そのつい2週間ほど前に、ご主人と出かけた帰り道、雨に濡れ、震えながら小さな声で鳴いている子猫を見つけたのだという。このご夫婦はずっと長いこと犬を飼っていたのだが、半年ほど前に愛犬を亡くしたばかりだった…。

「私も夫も猫は好きじゃなかったの。でも、このまま放っておいたら死んでしまう」と思い、手をのばして子猫を拾い上げ、家に連れて帰ったそうだ。

ご夫婦の献身的なケアのおかげで子猫は一命をとりとめ、日に日に元気になり、やんちゃになってきたそうで、「それがもう、かわいくて、かわいくて! しかも、おりこうなのよー」「猫ってこんなにかわいいものだったのねって、夫とも話しているの。あ、写真あるわよ、見る? ……ね、かわいいでしょーー♡♡」と、メロメロの顔でいろいろ話してくれた。

ちょっと前までは、猫が嫌いで、断然、犬のほうがいい!という考えの人だったとは思えないほどの、猫っかわいがりぶりに……「ん? なんだか状況が似ているなぁ」と思い出し、ワゴンから取り出したのが『高峰秀子 暮しの流儀』。

写真1「高峰秀子本表紙」 (474x500)

『高峰秀子 暮しの流儀』著:高峰秀子/松山善三/斎藤明美 初版:2012年1月25日 新潮社

続きを読む...

2年ほど前、ある古書市でのこと。ひとりの女性が当店のワゴンに近づいてきた。

「あのぉ、ママ猫の古本やさんということは…猫の飼い方についての本、あります?」

はい、ありますよと何冊か取りだして渡したところ、その女性は「最近、猫を飼い始めた」といって話し始めた。

なんでも、そのつい2週間ほど前に、ご主人と出かけた帰り道、雨に濡れ、震えながら小さな声で鳴いている子猫を見つけたのだという。このご夫婦はずっと長いこと犬を飼っていたのだが、半年ほど前に愛犬を亡くしたばかりだった…。

「私も夫も猫は好きじゃなかったの。でも、このまま放っておいたら死んでしまう」と思い、手をのばして子猫を拾い上げ、家に連れて帰ったそうだ。

ご夫婦の献身的なケアのおかげで子猫は一命をとりとめ、日に日に元気になり、やんちゃになってきたそうで、「それがもう、かわいくて、かわいくて! しかも、おりこうなのよー」「猫ってこんなにかわいいものだったのねって、夫とも話しているの。あ、写真あるわよ、見る? ……ね、かわいいでしょーー♡♡」と、メロメロの顔でいろいろ話してくれた。

ちょっと前までは、猫が嫌いで、断然、犬のほうがいい!という考えの人だったとは思えないほどの、猫っかわいがりぶりに……「ん? なんだか状況が似ているなぁ」と思い出し、ワゴンから取り出したのが『高峰秀子 暮しの流儀』。

写真1「高峰秀子本表紙」 (474x500)

『高峰秀子 暮しの流儀』著:高峰秀子/松山善三/斎藤明美 初版:2012年1月25日 新潮社

高峰秀子も猫が好きではなく、家では犬を飼っていたのだが、晩年、亡くなる直前の約3カ月間、たまたま猫を飼うことになり、「あの、秀子さんが?」と周囲が信じられないほど溺愛したという話が、本の一番最後の数ページに載っているのだ。

写真7「猫2」 (500x382)

『高峰秀子 暮しの流儀』より

著者は斎藤明美さん。もとは週刊誌の記者だった斎藤さんは取材が縁で高峰夫妻と懇意になり、その後、養女に迎えられた方だ。高峰秀子のエッセイや愛用品、未公開写真、日記などをもとに何冊か本をまとめられており、これはそのうちの1冊。「大女優・高峰秀子」ではなく、「家庭人としての高峰秀子」の「暮らしの流儀」を、秘蔵写真や衣食住にかかわる日用品、身近に置いて慈しんだ宝物などを通して綴っている。

《衣 飾らない》《食 偏らない》《住 背伸びしない》

目次を見ただけでも、高峰秀子が大事にしてきた生き方の一端が見えるようである。

写真3「衣」 (500x375)

『高峰秀子 暮しの流儀』より。ご主人(松山善三)曰く、「彼女の趣味は家事」。針仕事も得意だったそうだ。

写真4「食」 (500x378)

『高峰秀子 暮しの流儀』より。女優業をしながらも、3度の食事は必ず作っていた。亡くなる前、入院したときも斎藤さんに「台所にかぼちゃが支度してあるから」と言ったそう。

写真5「散髪と犬」 (500x368)

ご主人の髪を切るのは高峰秀子の役目だった。傍らには飼っていた犬が。