ある古本市に遊びに来てくれた友人に、こんなことを言われたことがある。
「このラインナップ、わかりやす過ぎるよ~(笑)。かわいい子猫の写真集がほとんどない!(笑)
猫本古本屋として、もちろん、かわいらしい子猫の写真集も取り扱っているのだが、個人的な好みとしては、ふてぶてしい顔の猫が好きなので、古本市などでは、ついつい、そういう写真集を並べたくなってしまう。そこを友人に、一目で見破られてしまったわけだ。
近年、いろいろなアプローチで撮影された猫写真集が発行されているが、そういう点でいうと、ちょっと前の昭和の時代に発行された猫写真集が好みだったりする。
と、そんな当店のもとに買取でやってきたのが、今回ご紹介する猫写真集。いずれも昭和50年代に発行された“昭和猫”たちである。
表紙の顔は凛とした良い表情ではあるものの、特に昭和猫だからどうこうというものではない。しかし表紙をめくった瞬間から、自由な意思で生きる、猫の一瞬をスパッと切り取ったような写真が続く。
本書は、「自分とは何か」を追求し続けた写真家・深瀬昌久による愛猫「サスケ」の成長を記録した写真集。若い頃は荒木経惟とも交流の深かった写真家である。
そして次の2冊は、いずれも動物写真家、田中光常、吉野信による子猫の写真集。
「にゃんこマガジン」に昨年12月に寄稿した『ちょっとワイルドな“昭和猫”の写真もいいね』で紹介した雑誌もそうだったが、どうやら、昭和50年代の猫写真集のキーワードは「貴族」「優雅」「野生」等のようである。
特にこの2冊は子猫の写真集でありながら、「うわぁ、かわいい~♡」と萌えるというよりは、小さいけど野生の血が流れているんだぞ…とでも言いたげな、鋭さや気高さを表現しているものが多い。
『ネコ~小さな冒険家』の吉野信は本書の中でこんなことを書いている。
《動物写真家としてやっていこうとした頃、猫、特に可愛らしいのを写してほしいという撮影依頼があったりして、愛猫家の所でいろいろな洋猫に出会った。…中略…。バックを作り、可愛らしい猫を可愛らしく撮る。子猫の可愛らしさを強調できるなら、こういう撮り方も又面白い。しかし、その場合は、さほど広くない面積上に、子猫を拘束しなければならない。当然ネコ自身の動きが制約されることが多い。そんなわけで、私はバックを作ってきれいに撮ることより、ネコ自身の自然の動きの一瞬をとらえることの方が、むしろ好きである》
私が、「この猫の顔、いいなぁ」と思う猫写真集は昭和50年代であることが多い。この時代、吉野信のような思いで猫を撮る動物写真家が多くいて、ちょっとワイルドで、気高く、どこか優雅な印象の猫写真集が多く出版されたのかもしれない。
そして、こうした猫写真集があったからこそ、このあと、「なめ猫」が出てきたり、岩合さんの写真に人気が集まったり、鍋に入ったり(笑)…と、いろいろな切り口の猫写真集につながってきたのかも…。猫写真集の歴史を追ってみるのも楽しいかもしれないなぁ。それはまた、いつか。