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検証!? 昭和の猫ブーム

最近、猫が出てくるCMが増えたような気がする…。

「子どもと動物は視聴率がとれる」なんていう話も聞いたことがある。確かに、画面に小さな子どもや動物が出てくると、つい見てしまうし、ましてや猫が出てきたら、条件反射のように「にゃあ」と声が出て、その動きに、表情に、じっと見入ってしまう。まんまと広告製作者のワナにはまっているよなぁ~と、頭の片隅で思いながらも(笑)。

私が今、放映中の猫CMで一番好きなのは、茶トラ白猫が出てくる某女性向けの漢方薬のCM。飼い主役の女優さんのまわりを心配そうにまとわりつく感じがたまらなくかわいいし、女優さんが猫の顔をむぎゅーっとする時の、細くなった目もかわいい。

 

猫CMが増えているのは、現在の“空前の猫ブーム”も関係しているに違いないのだが、同じようなことが過去にもあったようだ。

下の写真は昭和54年2月発行の『文藝春秋デラックス~ネコとその仲間たち』に載っている、当時の猫CMに出てきていた猫の特集。

《TVCMやポスター、雑誌の広告ページなどに登場する“人気ネコ”。名づけて「アド・キャット」。さて、どの子が何に登場したか、おわかりですかな?》

(写真上下ともに)『文藝春秋デラックス~ネコとその仲間』(昭和54年2月号)より

マスクをしている猫は家電メーカーの加湿器の広告、積み重ねられたLP盤の上に猫が寝そべっているのは音響メーカーのステレオセット、こたつから顔を出しているのは銀行、真正面を向いた子猫が大きな口をあけて鳴いているのは石鹸のテレビCM…等々、さまざまな業種、商品の宣伝広告に使われていたことがわかる。

 

そもそも、この『文藝春秋デラックス』はその名の通り、文藝春秋社から発行されていた雑誌。毎号、何かしら1つの大きなテーマのもとに編集されており、奥付にあるバックナンバーの内容を見ると、他には『ワインのある生活』『SLは生きている』『人物・日本プロ野球』『ジョーク&パロディ』『男のみだしなみ』『バロック音楽の世界』『宇宙SFの時代』『植村直己 冒険のすべて』『歌舞伎の花形』など、当時、大人の趣味や教養として知っておきたいと思われるようなことが特集されていることがわかる。

 

そのラインナップの中で、他とは毛色が違う感じで目を引くのが『アニメーションの本』。

『アニメーションの本』が発行されたのは昭和52年10月号だが、昭和52年と言えば、夏に『宇宙戦艦ヤマト』の劇場版が公開されて、それまでの「まんが映画」という言い方から「アニメ、アニメーション」と言われるようになり、「アニメブーム」という言葉が生まれた年だ。

そして、このラインナップの中で、もう1つ異色なのが『ネコとその仲間たち』の号。

宇宙戦艦ヤマトの年に『アニメーションの本』が出たことから推測するに、これはやはり、昭和54年前後の時期に「昭和の猫ブーム」があったと考えるのが自然だと思う。

 

『文藝春秋デラックス ネコとその仲間たち』昭和54年2月号

でも、どうしてずばり『猫』ではなくて、『ネコとその仲間たち』なんだろうなぁ。

当時の編集部で、「いくら猫ブームだからと言って、まるまるブームに乗っかるのはどうか?」とか「文藝春秋デラックスが、猫だけだなんて、そんな軟弱な構成でいいのか?」のような会話があったのかもしれないなぁ~などと想像してみる…(笑)。

 

野生猫のページ。やはり目がキリっとりりしい。

野性的な表情の黒猫は「昭和猫」写真に欠かせない!

もちろん、猫のかわいらしい写真もある。

雑誌ということで読み物ページも充実している。「現代ネコと現代社会」や「ネコ科動物の基礎知識」「スミロドンからイエネコまで<ネコ族の興亡史>」「イリオモテヤマネコ騒動」…等々。そんな中、動物写真家3人による対談も。それが「動物写真家がみた ネコ族の素顔」。

 

『ネコとその仲間たち』より。

ん? この名前には見覚えが…と思ったら、3人のうち2人が、以前、「にゃんこマガジン」に寄稿した《動物写真家としてのプライド。昭和50年代の猫写真集》(2016/3/1掲載)で紹介した写真家の吉野信氏と田中光常氏だった。

 

「にゃんこマガジン」~《動物写真家としてのプライド。昭和50年代の猫写真集》より

このおふたりに行田哲夫氏も加わった3人による対談。

なぜ動物写真家になったのかという話から、アフリカでのチーターやライオンなど野生生物を撮影したときのエピソード、飼い猫の写真を撮るときのポイントなどが語られている。

「アフリカで橋のない川を車で渡ろうとして動かなくなった」「撮影するのに一番スリルがあるのはトラ」、あるいは「チーターの親が獲物を追いかけるあまり子どもを見失うと、あっちこっちを向いて『ヒャンヒャン』とやさしい声で鳴く」といった動物写真家でなければ遭遇しえないエピソードなど、対談は話が尽きない感じで続いている。

『ネコとその仲間たち』全138ページ。写真も読み物ページも充実していて、読み応えのある1冊である。

ちなみに表紙の写真は名古屋東山動物公園で撮影されたオセロット。主に北アメリカから南アメリカ中部の森林地帯、熱帯雨林に生息するヤマネコで、その美しさから乱獲が続き、多くの国で絶滅危惧種に指定されているそうだ。

また、編集後記によると、この本を企画した意図としては、やはり当時の「猫ブーム」「猫本ブーム」が背景にあったようだ。そして、このブームはほとんどが「イエネコ」に限られていていることに違和感があったらしい。

《ネコは純粋種のペットだけではない。イエネコだけでもない。野生のネコも、なかなか結構なものだ。彼らのちょっとした素振りは、そのへんの道ばたにノソノソしている手合いとそっくりである。野生ネコについて、もっと知りたいし、知っていただきたい……と、そんな気持ちで、この特集を企画してみた》(編集後記より)

 

この編集後記。私もあまのじゃくな性格なので、なんだか、かなり共感できる(笑)。


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