子猫は環境に慣れれば、お客様にお膝乗りしに行くことがしばしばありますが、一才を過ぎ成猫になっていくにつれ、あまり乗らなくなる事が多いようです。人間で言うと思春期と同じ頃になるのでしょうか、人も猫も親離れするには必要なプロセスなのかもしれません。通常は飼い主だけに懐き、見知らぬ人にはお膝乗りしないまま成猫として年を経ていくことも多いのでしょう。すると当店はお膝乗り猫カフェを名乗らないまま数多くの猫カフェに埋もれフェードアウトしていたのかもしれません。
プリンちゃんは開業一年後にブリーダーさんに連れられ突然やってきました。他の姉妹二匹は立派な尻尾がありましたがプリンちゃんだけは尻尾が短く、さらには身体もガリガリで毛もバサバサでした。こんな短い尻尾のメインクーンはどこも買い取り手がないから、お店にどうかと勧められ、条件付きで引き受けました。姉妹の中でもプリンちゃんだけはご飯を食べようとしなかったので、もう少し母乳で育ててもらってからお店で迎える事がその条件でした。
1か月間母親の愛情を独り占めしたプリンちゃんは、少し痩せ気味ながらも元気にご飯を食べるようになって戻ってきました。
当時同じ子猫でクッキーの遊び相手となったりもしましたが、一つお姉さんのシロンちゃんを次第に慕うようになりました。避妊手術後は、ふくよかになり毛も艶やかになりました。今では、当店一番のツルツル毛並みの素敵な猫ちゃんとなりました。
開業後約1~2年間、みんなオトナになりあまりお膝乗りをしなくなった時期がありました。そんな中、成猫になったにもかかわらす突然プリンちゃんがコンスタントにお客様のお膝に乗るようになりました。つられて毎年3~4匹ずつ、子猫の時を思い出したかのように再びお膝乗りする猫が増えてきました。猫は他猫の行動を見て真似するかどうかを見極めます。プリンちゃんは余程気持ち良さそうにリラックスして乗っていたのでしょう。それと同時にお膝乗りにハマったお客様が徐々に増え始め、そのコツをお店と常連様が共有するようになり、シナジー効果となって今の「簡易なお膝乗りマニュアル」と「20匹全員お膝乗り猫軍団」が出来上がりました。
もちろんいつでもどこでも猫がお膝乗りをするわけではありません。お客様の行動、夏と冬、猫別でお膝乗り頻度は全く異なります。その中でもプリンちゃんは先鋒を務め、率先してお客様のお膝に乗ってみんなを引っ張りました。そんな尻尾の短いプリンちゃんは審査が厳しいキャットショーの世界ではおそらく外見で入選する事すら不可能だと思いますが、当店のお客様にとっては最高クラスのメインクーンだと思っております。ところでプリンちゃんは最近シロンちゃんが好き過ぎて大好きなお膝乗りが疎かになることが時々あります。しかしその仲良しの行動を見ているだけでも癒され朗らかな気分になるので、お膝乗りとか猫達と触れ合うことだけが猫カフェの楽しみ方ではないのがよくわかります。
当店のお膝乗りですが、猫のおやつで誘って乗せるわけではありません。さらには当店スタッフがお客様に猫を乗せたり、お店のひざ掛けにマタタビを振りかけている訳でもありません。多少の誘導はしますが、猫が自らの意志でお客様のお膝を選び乗る事のみを許可しております。
通常は家族しか懐かない成猫に信頼され選ばれる得も言われぬ喜びを猫好きのお客様にご体験して頂ければとても嬉しく存じます。
著者:Cat tail 庄 知宏