昨年2015年12月に当店の猫たちのストレス数値を測る機会がありました。猫カフェの夜間展示時間を20時までか、22時までをOKとするかを検討するために、「環境省」が「帝京科学大学伴侶動物行動学研究室」に猫のストレス調査をご依頼されました。上記研究室が「猫カフェ協会(関東地域で構成の有志20店舗)」経由で全国300数店舗中、100店舗の猫カフェに調査協力を依頼し、承諾した73店舗293頭が調査対象になりました。
各店舗より生後1年以上の猫4匹程度(雄雌2匹ずつ)の猫の糞を採取、冷蔵で輸送・保存し上記研究室で糞便中のコルチゾール濃度(ng/ml)を測定し、最長で20時まで営業の店舗」と「20時より後にも営業の店舗」の猫たちのストレス度に違いがあるかどうかを調査しました。ちなみに糞便中のコルチゾール数値の濃度(ng/ml)を測るとストレスが生体(猫)にかかっている度合が高くなるにつれ濃度(数値)も高くなるそうです。
「最長で20時まで営業の店舗」の糞中コルチゾール濃度の平均値は61.37(ng/ml)、「20時より後にも営業の店舗」の平均値は52.85(ng/ml)となり、後者に平均濃度が低い傾向が見られましたが、二つに有意差はなかったと結論付けられました。この調査結果は2016年3月から4月にかけて、第42回及び第43回中央環境審議会動物愛護部会において議論されました。ちなみにその議事録や詳細の調査結果は環境省で閲覧可能となっています。22時まで営業しても猫のストレス度は20時まで営業と変わらないと判断され、日本の猫カフェは仮の措置だった22時までの展示営業を正式に国から許可されました。
当店は「最長で20時まで営業の店舗」となります。ストレス度が高い猫たちを選んでも20時以降展示の他の猫カフェ様に不利益になることはなかったこともあり、それぞれの理由でストレス度が高そうな気になる4匹を選びました。選んだ4匹の猫たちの調査内容ですが希望すれば検査結果を個別にご報告いただけます。またステロイドなどを投薬している猫は薬の影響で数値が高く出やすいため、闘病中のメイビーやルパンは調査対象として選べませんでした。
カールスは、ボス猫マンタに標的にされるのを回避するため、隠れ家でこもりがち。たぶんストレス度が高いだろうと調査対象に選びました。
ジャスミンちゃんも、時々くるみちゃんやざらめちゃんの標的にされて追いかけられるので、やはりストレス度が高いかもと考え、調査対象に選出。
くるみちゃんは、逆にジャスミンちゃんやこむぎちゃんを目の敵にして時々追いかけたり、撫でていると急に「やめて!」とお客様に甘噛みしたりします。もしかしてストレス度が高いのかもということで調査対象に。
ムースは座椅子ルームでのお膝乗り猫の代表として選びましたが、縄張り意識が強く、そのための行動も時々表れます。その辺りが他のお膝乗り猫ちゃんよりストレス度が高そうということで調査対象に選びました。
その9カ月後、2016年9月に当店宛てに待ち望んでいた検査結果がやってきました。日ごろの猫たちのリラックスしたお膝乗りなどを見てストレス度は低いと確信していましたが、結果によってはその考え方を改めなければなりません。
カールスは40.14(ng/ml)、ジャスミンは11.25(ng/ml)、くるみは6.63(ng/ml)、ムースは22.92(ng/ml)でした。
カールス、ムース、ジャスミン、くるみの順にストレス度が高い結果となりましたが、293頭の平均値58.15(ng/ml)を全ての猫が下回る結果となり胸を撫で下ろしました。
さて、本題です。当店は年中無休で営業しています。当店でストレス度が高いと思われた4匹の平均値は20.24(ng/ml)で、73店舗の平均値58.15(ng/ml)の半分以下となり大きく下回る結果となりました。そしてその数値は73店舗中、ストレス度が低い店舗から6番目となっています。ほとんどが定休日を設定している中での6番目です。この結果は、週1日以上で単にお客様の居ない日を作るよりも、お客様が毎日居ても日々リラックスできる環境にした方が猫のストレス緩和に効果的である、という私の考えを補強する科学的裏付けとなりました。
その他報告書には、分析結果として、「年齢、性別、フロア面積、猫の密度等での比較は有意差がないか有意な相関がみられなかった」とありました。店舗面積を広くしたり、猫を少なくしたりという方法だけでは猫のストレス緩和にはつながらないとして認識しました。しかし一方では、「店舗間では有意差がみられた」とありました。たとえ1店舗4匹ずつとはいえ、店舗間でのストレス傾向の違いが確認出来た、と解釈しています。さらに「潜在的に店舗による何らかの違いがストレス状態に影響を与える可能性があると示唆します」と慎重な意見で締め括っていました。
猫は危機管理に優れ、いつでも安全な場所へ逃げられるように身体的自由を欲する動物です。(まだ信頼できていない)お客様に拘束されたり、ぬいぐるみ扱いされたりすることが多くなれば、隠れたり高い所に逃げたりして床に降りて来ません。もちろんお客様へのお膝乗りどころではありません。また、他の苦手な猫と遭遇するとケンカになるので避けたいと思ったり、近くで起きた大きな音や声に恐れたり、素早く動く小さなお子様などは踏まれたりし危ないからと避けたりと、それらもリラックス出来ずストレスを感じることでしょう。
当店は猫がお客様を「友だち」と思えるように様々な小さな工夫を積み重ねたり、部屋を仕切るなどして苦手な猫からケンカをふっかけられにくい空間作りをしたりなど、お客様のお知恵を拝借し、猫やお客様の行動を拝見しながら絶え間ない改善を行なっています。
ただ残念ながら、いくらストレス度が低い環境を作っても、毎年1回のワクチン接種や健康診断等を実施しても、日向ぼっこができたりしても、無休で猫たちの日中の変化を始終見守っていたりしても、年月を重ねていくに連れ、重病を患ったりする猫が出てきたり、突然虹の橋を渡る猫が出てきたりするのは避けられない事実です。猫の寿命が人間より短い現実に直面した時、耐えがたい心の痛みを伴い、その傷が奥底に残ります。そんな辛い一面もありますが、お客様と猫たちが幸せそうに過ごしている光景を拝見すると励まされ、できる限り長くこの空間をご提供できればと思う次第です。
もし当店よりストレス数値が低い5店舗を教えていただけるのであれば、訪問し参考にさせていただきたいと存じます。