【世界のニャ窓から file #8】

タイ、バンコク、パヤタイ鉄道駅付近。

タイの国鉄は利便性や快適性だけでなく運行の定時性でも
あまり信頼されていない。
それでも多くの庶民がもっとも身近な長距離の移動手段として利用する。
運賃が格安だからだ。

線路や駅などの設備はどこもお世辞にも整備されているとは言えず、
沿線がスラムに近い低所得者の住まいとなっていることも多い。
線路脇ぎりぎりに簡素な家屋が立ち並び、
列車本数の少ないのをいいことに線路内に市場らしきものさえ立ったりする。
線路は(列車が来なければ)公共の開放空間、と言うわけだ。

そしてそこにはネコがいる。

その場所が日に数本の電車・汽車の走行路であることを知ってか知らずか、
(人間同様)線路を横切ったり、枕木に寝転んだり、自由自在である。
金属が冷たくて気持ちが良いのだろうか、
日陰になった鉄路に顔を擦り付け幸福に満ちた表情のネコもいる。
ただ、日に数回、列車が通過する時だけは、人と同じくとても迷惑そうだ・・・。

 

DSCF1072
そんな沿線コミュニティーと共に暮らすネコとは別に、
線路に沿ってひたすら歩き続けるネコがいる。

前だけを見るその迷いのない眼差しとしっかりとした広い歩幅の足取りは、
確固たる目的を持って移動する旅人のそれだ。

沿線の仲間たちには目もくれず
まっすぐ線路に沿って進むそんなネコは、
線路がいったい何で、
それがどこからつながっていてどこに向かっているかを、
昔からすべて知っているようにも見える。
どうやら列車が近づいて来るときの安全な身のかわし方さえ
心得ているようだ。

一般的にネコの行動半径は最大でも数キロだそうだが、
線路という道標を得たこのネコは住処を離れる恐れなどもろともせず、
どこまでも自らの足で進めるのではないか、と夢想してしまう。
ネコの好奇心と勇気は無限で、
その自由な精神は、旅する人のそれと同じであるはずだから。

タイ国鉄は過去数十年の間の自らの凋落と周辺国の内戦などを理由に、
現在、隣国への国際列車を運行していない。
昨年末、タイとカンボジアが近年中の運行再開に合意すると、
多くの人が、線路そのものが今も国境を越えてつながっていることに
少なからず驚き、また近い将来の再開へ期待を膨ませた。

しかし線路を歩くネコたちは、
鉄路そのものが国境を超えて隣国へまで、
そしてさらにそのはるか彼方の見知らぬ土地へと続いていることなど、
人間よりも遥かに詳しく知っていただろう。
そしてその仲間には実際に今日も、楽々と国境を徒歩で勝手に往来し、
無限の旅を続けているものもたくさんいるだろう。

それは国境も国籍もパスポートも無縁の、理想の旅のスタイルだ。

近い将来、この線路にひんぱんに国際列車が走行する時、
これら国籍不明の自由なネコたちはどうなってしまうのだろうか。
人の生活の便利さが動物の移動の自由、旅の自由を
脅かし得ることを胸に刻みながら、
ネコたちの鉄路の道行きの安全を願うばかりだ。

 


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【世界のニャ窓から file #8】

タイ、バンコク、パヤタイ鉄道駅付近。

タイの国鉄は利便性や快適性だけでなく運行の定時性でも
あまり信頼されていない。
それでも多くの庶民がもっとも身近な長距離の移動手段として利用する。
運賃が格安だからだ。

線路や駅などの設備はどこもお世辞にも整備されているとは言えず、
沿線がスラムに近い低所得者の住まいとなっていることも多い。
線路脇ぎりぎりに簡素な家屋が立ち並び、
列車本数の少ないのをいいことに線路内に市場らしきものさえ立ったりする。
線路は(列車が来なければ)公共の開放空間、と言うわけだ。

そしてそこにはネコがいる。

その場所が日に数本の電車・汽車の走行路であることを知ってか知らずか、
(人間同様)線路を横切ったり、枕木に寝転んだり、自由自在である。
金属が冷たくて気持ちが良いのだろうか、
日陰になった鉄路に顔を擦り付け幸福に満ちた表情のネコもいる。
ただ、日に数回、列車が通過する時だけは、人と同じくとても迷惑そうだ・・・。

 

DSCF1072
そんな沿線コミュニティーと共に暮らすネコとは別に、
線路に沿ってひたすら歩き続けるネコがいる。

前だけを見るその迷いのない眼差しとしっかりとした広い歩幅の足取りは、
確固たる目的を持って移動する旅人のそれだ。

沿線の仲間たちには目もくれず
まっすぐ線路に沿って進むそんなネコは、
線路がいったい何で、
それがどこからつながっていてどこに向かっているかを、
昔からすべて知っているようにも見える。
どうやら列車が近づいて来るときの安全な身のかわし方さえ
心得ているようだ。

一般的にネコの行動半径は最大でも数キロだそうだが、
線路という道標を得たこのネコは住処を離れる恐れなどもろともせず、
どこまでも自らの足で進めるのではないか、と夢想してしまう。
ネコの好奇心と勇気は無限で、
その自由な精神は、旅する人のそれと同じであるはずだから。

タイ国鉄は過去数十年の間の自らの凋落と周辺国の内戦などを理由に、
現在、隣国への国際列車を運行していない。
昨年末、タイとカンボジアが近年中の運行再開に合意すると、
多くの人が、線路そのものが今も国境を越えてつながっていることに
少なからず驚き、また近い将来の再開へ期待を膨ませた。

しかし線路を歩くネコたちは、
鉄路そのものが国境を超えて隣国へまで、
そしてさらにそのはるか彼方の見知らぬ土地へと続いていることなど、
人間よりも遥かに詳しく知っていただろう。
そしてその仲間には実際に今日も、楽々と国境を徒歩で勝手に往来し、
無限の旅を続けているものもたくさんいるだろう。

それは国境も国籍もパスポートも無縁の、理想の旅のスタイルだ。

近い将来、この線路にひんぱんに国際列車が走行する時、
これら国籍不明の自由なネコたちはどうなってしまうのだろうか。
人の生活の便利さが動物の移動の自由、旅の自由を
脅かし得ることを胸に刻みながら、
ネコたちの鉄路の道行きの安全を願うばかりだ。

 


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