「首輪ってした方がいいんですか?」としばしば聞かれます。答えは「ケースバイケースです」。
「わからないから聞いているのに」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。意地悪を言っているのではないのです。実は我々にもわからないのです。猫はそれぞれで、ご自分の猫の特性を最も理解している(はず)なのは、飼い主さん自身だからです。答えは一つではないんです。
まずは、首輪をつけない派・つける派、それぞれの立場の主張を聞いて、一緒に考えてみましょう。
つけない派の主張
「ICチップ(マイクロチップ)入れてるし」
「首輪なんかして猫が喜ぶんですか(苦笑)?」
「首輪は危ない」
つける派の主張
「ICチップだけだと心配」
「つけたらかわいいし」
「セーフティバックルだから安心」
わかる……わかります……。どれもよくわかります。ここで、首輪屋「ネコソダテ」から残念なお知らせです。
猫はもともと何かを身につけることを嫌がる動物です!
皆さんすでにご存知ですよね。ですが、これは大事なポイントです。
ICチップが入っているから大丈夫?
私がまだ子どもだったン十年前は、ICチップを猫に入れるという概念が存在しませんでした(※編集部注)。ハイテクな世の中になったものです。とはいえ、ICチップはご存知の通り、動物病院や保健所など、ICチップを読み取る装置(スキャナー)がなければ情報を引き出すことができません。見た目では入っているとはわからないものです。
仮に猫を飼ったことがない方が、脱走した飼い猫を見つけたとして、彼らはどうするでしょうか。本来ならば、遺失物法に従い、警察に届け出をしなければいけないのですが、残念ながら、「あ、猫が散歩してる」「野良猫かな」「お家がないならうちの子になる?」などと考える方が一般的です。仮に自宅にその猫を迎え入れたとして、猫の健康が良好な状態であれば、保護しても動物病院に連れて行こうと考えないかもしれません。そうなると、ICチップを読み取ってもらえるチャンスはなかなかやってこないことになります。
そういったことを考えると、「ICチップが入っているから大丈夫!」と言い切れるでしょうか?
「首輪なんかして猫が喜ぶんですか(苦笑)?」VS「つけたらかわいいし」
猫が首輪をして喜ぶかといえば、特に喜ばないでしょう。前述のとおり、猫は身体に何かを身につけること嫌う動物です。そういう意味では、単にかわいいからといって、コスプレや過度な装飾のある首輪をつけることはお勧めできません。猫はそのままで十分にかわいいものです。
「じゃあ、首輪って意味ないね」と思ったあなた、ちょっと待った!
首輪は、迷子になったとき、災害時にはぐれたとき、「飼い猫ですよ」ということを示す目印になるのです(※編集部注)。首輪をつけていれば「どうやら飼い猫のようだ」とわかりますね。これに連絡先が記載された迷子札がついていれば、保護した方は即時に飼い主さんに連絡を取ることができます。また、捜索時にビラなどに「こんな首輪をつけています」など、猫の特徴の情報として追記することで、より個体の識別がしやすくなり、より早い保護につながることでしょう。
「首輪は危ない」VS「セーフティバックルの首輪だから安心」
ここまで読んですごく首輪したくなっちゃいました?でも、よく考えてください。
100%安全な首輪って存在しないんです。それは、100%安全な車が存在しないのと同じです。「セーフティバックルを使った首輪って安全なんじゃないの?」これは半分正解で半分間違いです。セーフティバックルとはわかりやすく言うと、首輪が何かに引っ掛かったときに「猫の体重程度の負荷で外れる首吊り防止」のパーツです。逆に言えば、「猫の体重程度の負荷がかからないと外れない」パーツということになります。つまり、さるぐつわになってパニックになった猫が頑張って外そうとしたぐらいでは外れないんですね。
また、脱走して保護されず、長い時間が経過してしまった猫が、成長して首が締まったり、逆に痩せてたすき掛けになってしまったりしてケガをしてしまうこともあります。首輪だけでは安全は担保できないのです。適正な着用とメンテナンス、脱走時の迅速な保護があって初めて、首輪は首輪としての力を発揮するのです。
適正な着用とメンテナンスとは?
適正な着用とは、適正なサイズで、「ゆるすぎず、きつすぎず」でつけることです。首と首輪の間に指2~3本分、前足が入らない程度の余裕でつけてあげましょう。頑張って外そうとする猫は指1~2本とやや締め気味にしても良いでしょう。首輪を嫌がって外そうとするのを防ぐため、柔らかく軽い首輪を選ぶことも大切です(詳細はまた別の機会に!)。
初めて首輪をするときは、無理矢理羽交い絞めにしてつけるのはご法度。リラックスしているときに優しくつけてあげるというタイミングも重要です。とはいえ、首輪が本当に無理な猫もいます。無理をさせないという選択もあります。一方で、焦らず少しずつ、様子を見ながらトレーニングをしてゆくという選択もあります。
メンテナンスは、定期的にサイズが適正な状態を保っているか、皮膚に異常がないかなどをチェック。また、ご自宅の中で首輪が引っ掛かりそうなポイントがないかも常時気を配る必要があります。
正解はないけれど……
私はうちの猫たちには首輪をつける派です。繰り返しになりますが、首輪をつけるかつけないかには正解はありません。「首輪は必要悪」ぐらいに考えていただくと、理解しやすいでしょうか。ですが、無理強いはダメ、絶対!それぞれの猫の特性を見ながら、つけるかつけないか、どんな首輪がよいか、じっくり考えてみてくださいね。
※編集部注
マイクロチップ(ICチップ)は東日本大震災で大いに見直され、普及が進んだ経緯があります。震災に驚いた犬や猫が壊れた自宅から飛び出したり、首輪やリードを引きちぎって逃走して行方不明になり、同行非難ができなかったケースが多数ありました。また、飼い主や人間がいなくなった土地に残されたペットたちは、長い放浪生活で首輪が取れてしまったり、過酷な生活を強いられ、痩せて首輪が抜けてしまったり、首輪を取ろうとしてたすき掛けや猿ぐつわ状態になってケガをしたりというケースも少なくありませんでした。
そういった備えとして、にゃんマガ編集部では首輪を使用する場合は、安全性の高いタイプの首輪を選択し、マイクロチップと併用することを推奨しています。現在マイクロチップスキャナーがあるのは、保健所や愛護センター、動物病院のみですが、今後、拾得物としてペットを扱う各交番にもマイクロチップスキャナーが常備されるようになったらいいなと思っています。ちなみに編集部員の猫たちは一部の首輪を嫌がらない部員を除き、首輪をつけていません。マイクロチップは全頭装着しています。
著者:ネコソダテ 満間摂子