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街を撮っていたら、いつもそこに猫がいた。『新宿ネコグラフィー』

先日、東京都新宿区歌舞伎町の「新宿ゴールデン街」の一角で発生した火災のことを覚えている方も多いことと思う。狭い路地に小さなバーやスナックが軒を連ねる地域。あれ以上延焼しなくて本当に良かったなぁとホッとしながら、あぁそう言えば…と思い出したのが、この本。『新宿ネコグラフィー』。

『新宿ネコグラフィー』写真と文:安藤菜穂子/新風舎/2003年6月初版

新宿というと大きなビルが立ち並ぶ都会のイメージだが、実は、ちょっと路地に入ると、昔からの飲み屋街があったり、あるいは開発の途中で打ち捨てられてしまったようなウラ寂しいエリアがあったりするものだ。

本書の著者・安藤菜穂子さんも、もとはそうした新宿に興味があって写真を撮り始めたらしい。ところが、そういう場所に行くと必ず猫がいることに気づく。写真は、そのうち、猫が中心になっていったようだ。

《…(前略)…猫が好きだからというよりも、新宿の魅力に動かされたことが大きいと思います。しかし、私が惹かれる場所に限って、必ずといっていいほどに猫が姿を現すのが面白く、次第に猫自身にも興味が増してきました。その後、第二の新宿を求めて、東京中をうろうろしましたが、新宿ほど都会でありながら自然の営みが感じられる不思議な街はありませんでした》(本書「最後に」より)

新宿8丁目付近の「気軽な成子坂飲食店街」で。この猫はノラではなく、おじさんの飼い猫「太郎」。

著者の安藤さん曰く「営業しているのか謎な感じのスナック」が並ぶ。主のようなオーラを漂わせているノラ猫。

安藤さんは新宿公園の端っこや、開発段階で計画がとん挫してしまったのか、取り壊し途中で打ち捨てられてしまったような場所も撮影している。崩れた家、家財道具が雨に濡れ、朽ちていく中で、うまーく隙間をみつけて、そこを棲みかとしているノラ猫がいたりもする。

そんなある日、新宿3丁目の路地で「ネコ専用」とマジックで書かれた傘を発見したそうだ。《近くの店の人たちが可愛がっているのが分かり、少しほっとしました》

下の写真は新宿2丁目の古い町並みの中にいた子猫。

安藤さんが熱心に撮影していると、ひとりのおばさんが近づいてきて、「猫はね、写真を撮ると早く死んじゃうのよ」とつぶやいて、いなくなってしまったという。

でもきっと、このつぶらな瞳がかわいらしい子猫は、新宿の飲食街で出た食べ物でしっかり大きくなり、眼光鋭くふてぶてしい感じのノラ猫に成長するんだろうなぁ。

安藤さんがかつて個展を開催したとき、「あなたの写真は看板が笑えるわね」と言われたことがあるそうだ。この写真集にも電柱や看板の近くに猫という組み合わせがいくつかあるが、私が好きなのがこれ。

丸く太い前足。猫がマッサージをするわけではないが、このマッサージ屋さん、気持ちよさそうな気がする(笑)。

 

この写真集が出版されたのは平成15年(2003)6月のこと。

もう10年以上たってしまっているし、ここ数年で、新宿の再開発がまた一段と進んだので、こうした小さな商店街もなくなっているかもしれない…と想像して、さみしい気持ちになる。西新宿5丁目にあったという小さな商店街は今もあるかしら。

安藤さんが撮影に来ると、よくこの白いノラ猫がいて、おでん屋さんで買い物をする人を見上げては、「おわ~」とか「ほぇ~」と鳴いて、足元にくるくるとまとわりついていたそうだ。白いノラ猫にはパートナーがいたようなので、もしかしたら今は、その子や孫世代の猫たちが、「おわ~」「ほぇ~」と鳴いているかもしれないね。


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