ぼくは番犬ならぬ番猫である。
お家と家族を守るのが僕の仕事だ。
よその猫が近づいてこないように、いつだって窓の外には目を光らせているし、時々ピンポ~ンって音を鳴らして玄関にやってくる人間には最大限の警戒心をもって迎えるようにしている。

1

あ、自己紹介を忘れていました。
ぼくの名前はアロ。
ネイティブアメリカンの言葉で「大地をつかさどるもの」という意味だ。
ママは立派な名前をぼくにつけてくれました。
だから、名前にふさわしい猫にならねば、うん。

2

ぼくには一緒に暮らす妹がいる。
名前はヤツィ。ネイティブの言葉で「小さきもの」という意味なんだ。
その名の通りヤツィはとても小柄でかわいくて、ぼくが守ってあげないといけない。

そんなぼくたちの穏やかな生活を脅かす奴がいる。
なんと、そいつはママの留守中に堂々とお家に入ってくるのだから、たまらない。
ママが留守になると、どこからともなくやってくる侵入者だ。

ぼくは家の中で一番高い食器棚の上に飛びあがって、上から威圧するのだけど、、、

3

とんでもないことに、ヤツィはそいつが来ると、飛んで行って喜んでお出迎えなんてしちゃうんだな・・・!
小さくてかわいいぼくのヤツィ!
そいつに取っ捕まったら、どうすんだ~・・・!

4

ママからはこんなやつのことは全然聞いてないぞ~・・・!
いったい、どうなってんだ~・・・?

ヤツィはママにするみたいにお腹をゴロンと出して、体をくねくねしたりして・・・
ヤツィはあいつが怖くないのか?
ヤツィは意外と大物、、、いやいや、まだ子供だから、怖いってことを知らないだけだ。
ぼくがしっかり教えてやらねば・・・!
とはいっても僕は食器棚の上。ぼくはひやひやしながら、ヤツィとそいつの様子を見守るしかない。

5

ヤツィはそいつをすっかり手なずけてしまって、思うように動かしている。
挙句の果てにブラッシングまでさせている。
ヤツィも気持ちよさそうに目を細めたりなんかして、まんざらでもなさそう・・・

そのうちそいつは、鼻歌なんて歌いながら、ぼくらのトイレをごそごそ掃除し始める。
それはそれでありがたいことだけど、感謝してるなんてけっして見透かされてはいけない。
余計なことをしやがって、という表情で冷ややかに見つめるだけだ。

ぼくは食い意地が張ってないから、そいつが用意したご飯にもつられたりしない。
何時間でも、ここでねばって下になんかぜったい降りてやるもんか。
ぼくは強い男なんだ。

だけど、こんな屈強なぼくにも弱いものが一つだけある・・・

6

そいつが長い棒の先にトンボがついたおもちゃだの、ひものじゃらしをぶんぶん振り回しだしたら、なぜだか自然と目が釘付けになっちゃうんだな・・・

7

ヤツィは、すでにおもちゃの先のトンボを捕まえようと、ジャンプしたり追いかけたり、大はしゃぎだ。
ぼくも、上から見ているとむずむずしてしまって、衝動を抑えられなくなる。
だめだ、だめだ、と頭の中で分かっていても、体が言うことを聞かない。

8

気が付くと、ぼくはいつの間にか下に降りていて、ヤツィを押しのけてトンボに飛びかかっていた・・・!!

目の端に、あいつがにやりと笑うのが見えた気がした・・・

自分のしてしまったことに、しまった!と思っても、もう遅い。
こうなったらだれにも止められない。ぼくでさえ自分を止められない。
ぼくは力のあらんかぎりを出し切って、ダッシュしてジャンプして、トンボに夢中だ!

それに、この侵入者はトンボ使いが絶妙にうまいのだ。
どこかで練習でもしてきているのか・・・?と思わせるほど。

とにかく疲れ果てるまで、追いかけて追いかけて・・・
とうとうぼくはソファの下に体を投げ出してしまう。

あ~、良い運動になった~・・・
と思っているわけではなく、やってしまったな~…という感じ。

ぼくの仕事はこいつから家を守ることなのに・・・

9

そいつが帰ってしまった後、家の中はみょうにし~ん・・・と静まり返る。
騒がせるだけ騒がせておいて、ぼくの威厳も何もかもをこっぱみじんにしておいて、じゃ~ね~と、
さっさと消えてしまうのだから、たちが悪い。

ようやく帰ったか、とほっとする反面、
不思議とぼくは、「あいつは次いつ来るのかな」と心のどこかで待ってしまうのだった・・・

10

キャットシッターないとうのHP:  http://catsitter-naito.com/

 

著者:内藤由佳子

ぼくは番犬ならぬ番猫である。
お家と家族を守るのが僕の仕事だ。
よその猫が近づいてこないように、いつだって窓の外には目を光らせているし、時々ピンポ~ンって音を鳴らして玄関にやってくる人間には最大限の警戒心をもって迎えるようにしている。

1

あ、自己紹介を忘れていました。
ぼくの名前はアロ。
ネイティブアメリカンの言葉で「大地をつかさどるもの」という意味だ。
ママは立派な名前をぼくにつけてくれました。
だから、名前にふさわしい猫にならねば、うん。

2

ぼくには一緒に暮らす妹がいる。
名前はヤツィ。ネイティブの言葉で「小さきもの」という意味なんだ。
その名の通りヤツィはとても小柄でかわいくて、ぼくが守ってあげないといけない。

そんなぼくたちの穏やかな生活を脅かす奴がいる。
なんと、そいつはママの留守中に堂々とお家に入ってくるのだから、たまらない。
ママが留守になると、どこからともなくやってくる侵入者だ。

ぼくは家の中で一番高い食器棚の上に飛びあがって、上から威圧するのだけど、、、

3

とんでもないことに、ヤツィはそいつが来ると、飛んで行って喜んでお出迎えなんてしちゃうんだな・・・!
小さくてかわいいぼくのヤツィ!
そいつに取っ捕まったら、どうすんだ~・・・!

4

ママからはこんなやつのことは全然聞いてないぞ~・・・!
いったい、どうなってんだ~・・・?

ヤツィはママにするみたいにお腹をゴロンと出して、体をくねくねしたりして・・・
ヤツィはあいつが怖くないのか?
ヤツィは意外と大物、、、いやいや、まだ子供だから、怖いってことを知らないだけだ。
ぼくがしっかり教えてやらねば・・・!
とはいっても僕は食器棚の上。ぼくはひやひやしながら、ヤツィとそいつの様子を見守るしかない。

5

ヤツィはそいつをすっかり手なずけてしまって、思うように動かしている。
挙句の果てにブラッシングまでさせている。
ヤツィも気持ちよさそうに目を細めたりなんかして、まんざらでもなさそう・・・

そのうちそいつは、鼻歌なんて歌いながら、ぼくらのトイレをごそごそ掃除し始める。
それはそれでありがたいことだけど、感謝してるなんてけっして見透かされてはいけない。
余計なことをしやがって、という表情で冷ややかに見つめるだけだ。

ぼくは食い意地が張ってないから、そいつが用意したご飯にもつられたりしない。
何時間でも、ここでねばって下になんかぜったい降りてやるもんか。
ぼくは強い男なんだ。

だけど、こんな屈強なぼくにも弱いものが一つだけある・・・

6

そいつが長い棒の先にトンボがついたおもちゃだの、ひものじゃらしをぶんぶん振り回しだしたら、なぜだか自然と目が釘付けになっちゃうんだな・・・

7

ヤツィは、すでにおもちゃの先のトンボを捕まえようと、ジャンプしたり追いかけたり、大はしゃぎだ。
ぼくも、上から見ているとむずむずしてしまって、衝動を抑えられなくなる。
だめだ、だめだ、と頭の中で分かっていても、体が言うことを聞かない。

8

気が付くと、ぼくはいつの間にか下に降りていて、ヤツィを押しのけてトンボに飛びかかっていた・・・!!

目の端に、あいつがにやりと笑うのが見えた気がした・・・

自分のしてしまったことに、しまった!と思っても、もう遅い。
こうなったらだれにも止められない。ぼくでさえ自分を止められない。
ぼくは力のあらんかぎりを出し切って、ダッシュしてジャンプして、トンボに夢中だ!

それに、この侵入者はトンボ使いが絶妙にうまいのだ。
どこかで練習でもしてきているのか・・・?と思わせるほど。

とにかく疲れ果てるまで、追いかけて追いかけて・・・
とうとうぼくはソファの下に体を投げ出してしまう。

あ~、良い運動になった~・・・
と思っているわけではなく、やってしまったな~…という感じ。

ぼくの仕事はこいつから家を守ることなのに・・・

9

そいつが帰ってしまった後、家の中はみょうにし~ん・・・と静まり返る。
騒がせるだけ騒がせておいて、ぼくの威厳も何もかもをこっぱみじんにしておいて、じゃ~ね~と、
さっさと消えてしまうのだから、たちが悪い。

ようやく帰ったか、とほっとする反面、
不思議とぼくは、「あいつは次いつ来るのかな」と心のどこかで待ってしまうのだった・・・

10

キャットシッターないとうのHP:  http://catsitter-naito.com/

 

著者:内藤由佳子