どうにも納得が行かないことがあります。
生体販売がなぜ利益を上げ続けられるのか? ということです。
どうして納得が行かないのか、ちょっとシミュレーションしてみましょう。
(※あくまでも仮に設定した数値です。誤解なきようお願いいたします)
仔猫を販売するペットショップが新装開店したとします。
▼店舗にはショーケースが20個あるとします。最大20頭まで同時に販売できるということです。
▼毎月、10頭仕入れるとします。仕入れ値は3万円とします。
▼毎月、9頭売れるとします。販売価格は10万円とします。
▼毎月、仕入れた10頭のうち1頭は売れ残るとします。
▼仕入れた月に売れなければ売れ残りと定義します(あくまでも仮の定義です。いやいや、3カ月は売れ筋で売れ残りじゃないよ! などの議論はちょっと置いときます)。
▼売れ残りは5カ月に1頭くらいしか売れないとします。
▼売れ残りは半値の5万円で販売するとします。
▼餌代や医療費などで毎月1頭につき1万円の維持費がかかるとします。
3万円で仕入れて維持費1万円かかって10万円で売れたとすると6万円の利益です。月に9頭売れると6×9=54万円の儲けですね。年間にすると54×12ヶ月=648万円の儲けになります。儲かる商売のように思えますが… 。
経過年月を横軸にしたグラフにすると以下のようになります。あくまでも仮の数値なので当然誤差はありますが、でも長期的な傾向はだいたいこんな感じになると思うのです、普通に考えるとですね(「餌代」のところは諸経費とお考えください)。
簡単に言うと最初は良いが後々は破綻するはずだということ、その理由は不良在庫です。
この店舗の販売数のキャパはショーケースの枠20個です。その月に仕入れた、いわゆる売れ筋と、累積していく売れ残りが、20個の枠に占める割合をグラフにすると以下のようになります。
重要なのは言うまでもなく毎月1頭づつの「売れ残り」が出ていると仮定している点です。生体なので簡単に処分するわけにいきません。でも餌代はかかりますし病気になって治療代がかかるかも知れません。いわゆる不良在庫になって利益を圧迫します。このシミュレーションでいくと14カ月めくらいからは売れ残りがショーケースを埋め始め、仕入れ数を減らさざるを得なくなっています。売れ筋の仔猫の仕入れが減るのですから、当然利益も減っていきます。負のサイクルと言って良いでしょう。
売れ残りなので簡単には売れませんし、成長すればするほど売れにくいでしょう。値下げや特売の対象にならざるを得ません。バックヤードに連れて行ったとしてもスペースは限られるでしょうからいずれ破綻します。
ロス率や不良在庫は流通における重要な課題だと思います。これが物販の話なら廃棄という手段をとることができます。不良在庫は思い切って廃棄し新たな商品を仕入れて回転させることにより、利益を維持することができます。逆に言うと、廃棄ができないのならば一般的な「仕入れて売る」という商売は成り立つはずがないのです。仕入れた商品が100%売れる商売などあり得ないのですから。さらに言うと、売れる旬の期間が短い商品ほどその在庫管理は難しいでしょう。
そんな中で、生体販売で何年にも渡って利益を上げ続ける企業があるのだとしたら、どのような在庫管理を行っているのかものすごく興味があります。太田匡彦氏の著書「犬を殺すのは誰か ペット流通の闇」を読んだときには「やっぱりそうなのか…」と思わずにはいられませんでした。
当然、企業もあれこれ模索するでしょう。売れ残って成長してしまった動物たちの有効活用の方法を。でも思いつくのは… 繁殖に回す、移動動物園などに利用する、ペットのレンタル業など? 動物の幸せにつながるようなことはあまり想像できないし、またその枠でさえもすぐにいっぱいになってしまいそうです。何しろ10年以上生きるのですから。
数年前までの日本においては、生き物も物販のように廃棄しやすい素地があったと思います。保健所などの自治体は持ち込まれた犬や猫を引き取らざるをえず、その後その動物がどのような運命をたどるのか公に報じられることもありませんでした。
でもこの先は違います。2013年の動物愛護法改正によって、自治体側が動物取扱業者からの持ち込みを拒否できるようになりました。これはお店側が容易に処分することができず、不良在庫を抱えるリスクが大きくなっていることを意味します。
また、近年の動物に対する意識の高まりにより一般の人々がその業界の裏側に興味を持ち始めたということもあるでしょう。「売れ残った動物たちはどうなるの?」「何匹かは里親を探しますとかそういう話ではなくて、売れ残った大部分の動物たちはどこへ行くの?」お客さまからのそういう質問に対して、明確に胸を張って答えられるお店がどのくらいあるのでしょうか。
1兆5千億円の市場と言われるペット業界。もちろんそのすべてが生体販売ではないですし、人と動物が共生していくために必要な業界です。私が言いたいことは「生体販売だけをやめればいいんじゃないですか?」ということです。だってもうこの先は生体販売なんて儲からないんですから。
来年2018年の動物愛護法の次の改正を控え、この先、法的にも社会的にも動物を扱う業者への目はどんどん厳しくなっていくことが予想されます。そんな中でわざわざ生体を売るよりもペットフードや関連グッズの開発・販売で儲ける方法を模索する方が利口だと思うのです。動物は保護施設から、そしてフードやグッズはお店で買う。それが自然な形ではないでしょうか。
地方のペットショップが生体販売をやめたというニュースが全国ネットで取り上げられることもあります。それはまさに拍手喝采もので美談として語られることに異論はありませんが、一方で思うことは、それは企業にとっての「長期を見据えた単なる経営的英断」なのではという気もします。あるペット業界大手の企業も、生体販売から撤退するという話も聞こえてきます。英断を下す企業がこれからも出てくることを強く望みます。
著者:ねこたろう
どうにも納得が行かないことがあります。
生体販売がなぜ利益を上げ続けられるのか? ということです。
どうして納得が行かないのか、ちょっとシミュレーションしてみましょう。
(※あくまでも仮に設定した数値です。誤解なきようお願いいたします)
仔猫を販売するペットショップが新装開店したとします。
▼店舗にはショーケースが20個あるとします。最大20頭まで同時に販売できるということです。
▼毎月、10頭仕入れるとします。仕入れ値は3万円とします。
▼毎月、9頭売れるとします。販売価格は10万円とします。
▼毎月、仕入れた10頭のうち1頭は売れ残るとします。
▼仕入れた月に売れなければ売れ残りと定義します(あくまでも仮の定義です。いやいや、3カ月は売れ筋で売れ残りじゃないよ! などの議論はちょっと置いときます)。
▼売れ残りは5カ月に1頭くらいしか売れないとします。
▼売れ残りは半値の5万円で販売するとします。
▼餌代や医療費などで毎月1頭につき1万円の維持費がかかるとします。
3万円で仕入れて維持費1万円かかって10万円で売れたとすると6万円の利益です。月に9頭売れると6×9=54万円の儲けですね。年間にすると54×12ヶ月=648万円の儲けになります。儲かる商売のように思えますが… 。
経過年月を横軸にしたグラフにすると以下のようになります。あくまでも仮の数値なので当然誤差はありますが、でも長期的な傾向はだいたいこんな感じになると思うのです、普通に考えるとですね(「餌代」のところは諸経費とお考えください)。
簡単に言うと最初は良いが後々は破綻するはずだということ、その理由は不良在庫です。
この店舗の販売数のキャパはショーケースの枠20個です。その月に仕入れた、いわゆる売れ筋と、累積していく売れ残りが、20個の枠に占める割合をグラフにすると以下のようになります。
重要なのは言うまでもなく毎月1頭づつの「売れ残り」が出ていると仮定している点です。生体なので簡単に処分するわけにいきません。でも餌代はかかりますし病気になって治療代がかかるかも知れません。いわゆる不良在庫になって利益を圧迫します。このシミュレーションでいくと14カ月めくらいからは売れ残りがショーケースを埋め始め、仕入れ数を減らさざるを得なくなっています。売れ筋の仔猫の仕入れが減るのですから、当然利益も減っていきます。負のサイクルと言って良いでしょう。
売れ残りなので簡単には売れませんし、成長すればするほど売れにくいでしょう。値下げや特売の対象にならざるを得ません。バックヤードに連れて行ったとしてもスペースは限られるでしょうからいずれ破綻します。
ロス率や不良在庫は流通における重要な課題だと思います。これが物販の話なら廃棄という手段をとることができます。不良在庫は思い切って廃棄し新たな商品を仕入れて回転させることにより、利益を維持することができます。逆に言うと、廃棄ができないのならば一般的な「仕入れて売る」という商売は成り立つはずがないのです。仕入れた商品が100%売れる商売などあり得ないのですから。さらに言うと、売れる旬の期間が短い商品ほどその在庫管理は難しいでしょう。
そんな中で、生体販売で何年にも渡って利益を上げ続ける企業があるのだとしたら、どのような在庫管理を行っているのかものすごく興味があります。太田匡彦氏の著書「犬を殺すのは誰か ペット流通の闇」を読んだときには「やっぱりそうなのか…」と思わずにはいられませんでした。
当然、企業もあれこれ模索するでしょう。売れ残って成長してしまった動物たちの有効活用の方法を。でも思いつくのは… 繁殖に回す、移動動物園などに利用する、ペットのレンタル業など? 動物の幸せにつながるようなことはあまり想像できないし、またその枠でさえもすぐにいっぱいになってしまいそうです。何しろ10年以上生きるのですから。
数年前までの日本においては、生き物も物販のように廃棄しやすい素地があったと思います。保健所などの自治体は持ち込まれた犬や猫を引き取らざるをえず、その後その動物がどのような運命をたどるのか公に報じられることもありませんでした。
でもこの先は違います。2013年の動物愛護法改正によって、自治体側が動物取扱業者からの持ち込みを拒否できるようになりました。これはお店側が容易に処分することができず、不良在庫を抱えるリスクが大きくなっていることを意味します。
また、近年の動物に対する意識の高まりにより一般の人々がその業界の裏側に興味を持ち始めたということもあるでしょう。「売れ残った動物たちはどうなるの?」「何匹かは里親を探しますとかそういう話ではなくて、売れ残った大部分の動物たちはどこへ行くの?」お客さまからのそういう質問に対して、明確に胸を張って答えられるお店がどのくらいあるのでしょうか。
1兆5千億円の市場と言われるペット業界。もちろんそのすべてが生体販売ではないですし、人と動物が共生していくために必要な業界です。私が言いたいことは「生体販売だけをやめればいいんじゃないですか?」ということです。だってもうこの先は生体販売なんて儲からないんですから。
来年2018年の動物愛護法の次の改正を控え、この先、法的にも社会的にも動物を扱う業者への目はどんどん厳しくなっていくことが予想されます。そんな中でわざわざ生体を売るよりもペットフードや関連グッズの開発・販売で儲ける方法を模索する方が利口だと思うのです。動物は保護施設から、そしてフードやグッズはお店で買う。それが自然な形ではないでしょうか。
地方のペットショップが生体販売をやめたというニュースが全国ネットで取り上げられることもあります。それはまさに拍手喝采もので美談として語られることに異論はありませんが、一方で思うことは、それは企業にとっての「長期を見据えた単なる経営的英断」なのではという気もします。あるペット業界大手の企業も、生体販売から撤退するという話も聞こえてきます。英断を下す企業がこれからも出てくることを強く望みます。
著者:ねこたろう