皆さんは猫の語源をご存知でしょうか。所説あるのですが、「寝る子」が変化して「ねこ」になったという説が有力です。

しかし、大吉は遊んでもらいたい盛りなのか、日夜遊び回っている印象があるため、その語源にピンときていませんでした。朝起きたら真っ先に抱っこをねだり、夜帰ってくると、夜の運動会の真っ盛り。

そんな大吉を見て感じていた語源への疑念は、ある一つの出来事によって、いとも簡単に打ち砕かれることになったのです……。


ある日、親戚に不幸があり、家を空けなくてはならなくなりました。

僕と妻様は落胆とともに慌てふためき、準備に追われます。大吉はこちらのせわしなさを鋭く感じ取り、「どうしたの?」「何かあったの?」との表情を浮かべていました。

礼服の準備から一泊分の着替え、移動手段とホテルの手配。

そうこうしているうちに元野良猫の勘が働いたか、大吉は「アーオ! アーオ!」と不安そうな声を出し始めました。それもそのはずです。大吉にとって、初めての長いお留守番が待ち受けているのですから。

自分たちの用意もそこそこに、大吉のための準備に取りかかります。

まず、何かの時のために買っておいた、自動餌やり器をセットする。

この自動餌やり器はなかなかの優れもので、タイマーを付けておくと、決まった時間に決まった量のキャットフードを出してくれるのです。 「もしも予定が延びたら、ご飯が足りなくなる。飢え死にしては困る」

そんな心配もあったため、2~3日分のキャットフードを機械に入れておきました。一回分の動作確認も済ませ、ご飯の準備は完了です。

そして、もう一つ用意しておいたのが、ウェブカメラです。

無料でダウンロードできるスマートフォン・アプリから、どんな時でも部屋の様子が見られるのです。さらに、そのウェブカメラには、動くものを感知すると自動的に録画がスタートする機能まで備わっており、至れり尽くせり。

この手のウェブカメラは旅行時や出張時など長期で家を空ける際や、子どもだけで留守番をする際などに用いることが多いようで、「猫ちゃん一人のお留守番にも!」という売り文句に、里親心をまんまとくすぐられ、買ってしまった一品です。 「あぁ、すまぬ。しばしの別れ!」

そう心の中で叫び、大吉を抱きしめようとするも、興奮状態にある大吉は逃げ回り、一向に捕まえることはできません。感動的な別れもグダグダのまま家を出ることになりました。

外出してすぐにアプリを立ち上げると、困ったように部屋を歩き回る大吉の姿が。その光景に心を痛めながらも、僕と妻様は飛行機に乗り込みます。

それからというもの、何をしていても大吉のことが気になってしまうのです。

道の端で黒猫を見かけても。洋服についた毛を見つけても。おにぎりの黒い海苔を見ても。そして、探してしまう。こんなところにいるはずもないのに……。

何度か部屋の様子を見ているうちに、大吉の様子も落ち着いてきて、僕たちの不安も薄れていきます。その代わり、全く別の感情が芽生えてきました。

親戚宅へ到着後、就寝前、就寝後、帰りの飛行機の離陸前。

いつ何時、自宅の様子を見ても、大吉は定位置に「ヒ」の字で寝ているではありませんか。しかもウェブカメラに搭載された動作感知機能による録画記録もない。つまり、こちらが見ていない間も全く動いていないことになります。  その時間、なんと18時間。18時間動いた形跡なし。18時間寝っぱなし。

そう、大吉は、とんだ「寝子」だったのです。

もしかしたら、大吉はどこかのタイミングで、この状況は自分の力ではどうにもならないことを悟り、「いっそのこと寝るか」と、問題の解決を時間に託したのかもしれません。

雪山で遭難した際、自分の生命を守る最善の方法は、体力を温存することで、無駄に動かいことが鉄則です。大吉は誰に教えられることもなく、この教えを体現していたのです。

それからというもの、僕も困った時には、時間を置いてみたり、いっそのこと寝てしまうようにしています。時間を置くことで、問題が収束に向かったり、燃えたぎるような怒りの炎が鎮静化していることも多いのです。寝ることで頭の中がスッキリし、前向きに解決策を見出そうと思える効果もあります。

もちろん、時間を置くことで問題が大きくなってしまうこともあるため、問題の緊急性と重要性とを鑑みながら、判断することが大切です。

ちなみに、僕たちが帰宅した時、大吉はこれ以上ない大あくびと伸びで出迎えてくれました。そして「一日中ずっと寂しかった」「上手にお留守番できたよ、褒めて」と言わんばかりに頭を摺り寄せてくるのです。まさか18時間も寝ながら待っていたことがウェブカメラを通じてバレているとは想像すらしていないでしょう。

僕はその要望に応えるように大吉の頭を撫でてあげました。そして、ちょっと痛いくらいに、その小さな身体を強く抱きしめたのです。

そんな大吉との喜劇的気づきの日々をまとめた本です。

 

著者:梅田悟司

 

皆さんは猫の語源をご存知でしょうか。所説あるのですが、「寝る子」が変化して「ねこ」になったという説が有力です。

しかし、大吉は遊んでもらいたい盛りなのか、日夜遊び回っている印象があるため、その語源にピンときていませんでした。朝起きたら真っ先に抱っこをねだり、夜帰ってくると、夜の運動会の真っ盛り。

そんな大吉を見て感じていた語源への疑念は、ある一つの出来事によって、いとも簡単に打ち砕かれることになったのです……。


ある日、親戚に不幸があり、家を空けなくてはならなくなりました。

僕と妻様は落胆とともに慌てふためき、準備に追われます。大吉はこちらのせわしなさを鋭く感じ取り、「どうしたの?」「何かあったの?」との表情を浮かべていました。

礼服の準備から一泊分の着替え、移動手段とホテルの手配。

そうこうしているうちに元野良猫の勘が働いたか、大吉は「アーオ! アーオ!」と不安そうな声を出し始めました。それもそのはずです。大吉にとって、初めての長いお留守番が待ち受けているのですから。

自分たちの用意もそこそこに、大吉のための準備に取りかかります。

まず、何かの時のために買っておいた、自動餌やり器をセットする。

この自動餌やり器はなかなかの優れもので、タイマーを付けておくと、決まった時間に決まった量のキャットフードを出してくれるのです。 「もしも予定が延びたら、ご飯が足りなくなる。飢え死にしては困る」

そんな心配もあったため、2~3日分のキャットフードを機械に入れておきました。一回分の動作確認も済ませ、ご飯の準備は完了です。

そして、もう一つ用意しておいたのが、ウェブカメラです。

無料でダウンロードできるスマートフォン・アプリから、どんな時でも部屋の様子が見られるのです。さらに、そのウェブカメラには、動くものを感知すると自動的に録画がスタートする機能まで備わっており、至れり尽くせり。

この手のウェブカメラは旅行時や出張時など長期で家を空ける際や、子どもだけで留守番をする際などに用いることが多いようで、「猫ちゃん一人のお留守番にも!」という売り文句に、里親心をまんまとくすぐられ、買ってしまった一品です。 「あぁ、すまぬ。しばしの別れ!」

そう心の中で叫び、大吉を抱きしめようとするも、興奮状態にある大吉は逃げ回り、一向に捕まえることはできません。感動的な別れもグダグダのまま家を出ることになりました。

外出してすぐにアプリを立ち上げると、困ったように部屋を歩き回る大吉の姿が。その光景に心を痛めながらも、僕と妻様は飛行機に乗り込みます。

それからというもの、何をしていても大吉のことが気になってしまうのです。

道の端で黒猫を見かけても。洋服についた毛を見つけても。おにぎりの黒い海苔を見ても。そして、探してしまう。こんなところにいるはずもないのに……。

何度か部屋の様子を見ているうちに、大吉の様子も落ち着いてきて、僕たちの不安も薄れていきます。その代わり、全く別の感情が芽生えてきました。

親戚宅へ到着後、就寝前、就寝後、帰りの飛行機の離陸前。

いつ何時、自宅の様子を見ても、大吉は定位置に「ヒ」の字で寝ているではありませんか。しかもウェブカメラに搭載された動作感知機能による録画記録もない。つまり、こちらが見ていない間も全く動いていないことになります。  その時間、なんと18時間。18時間動いた形跡なし。18時間寝っぱなし。

そう、大吉は、とんだ「寝子」だったのです。

もしかしたら、大吉はどこかのタイミングで、この状況は自分の力ではどうにもならないことを悟り、「いっそのこと寝るか」と、問題の解決を時間に託したのかもしれません。

雪山で遭難した際、自分の生命を守る最善の方法は、体力を温存することで、無駄に動かいことが鉄則です。大吉は誰に教えられることもなく、この教えを体現していたのです。

それからというもの、僕も困った時には、時間を置いてみたり、いっそのこと寝てしまうようにしています。時間を置くことで、問題が収束に向かったり、燃えたぎるような怒りの炎が鎮静化していることも多いのです。寝ることで頭の中がスッキリし、前向きに解決策を見出そうと思える効果もあります。

もちろん、時間を置くことで問題が大きくなってしまうこともあるため、問題の緊急性と重要性とを鑑みながら、判断することが大切です。

ちなみに、僕たちが帰宅した時、大吉はこれ以上ない大あくびと伸びで出迎えてくれました。そして「一日中ずっと寂しかった」「上手にお留守番できたよ、褒めて」と言わんばかりに頭を摺り寄せてくるのです。まさか18時間も寝ながら待っていたことがウェブカメラを通じてバレているとは想像すらしていないでしょう。

僕はその要望に応えるように大吉の頭を撫でてあげました。そして、ちょっと痛いくらいに、その小さな身体を強く抱きしめたのです。

そんな大吉との喜劇的気づきの日々をまとめた本です。

 

著者:梅田悟司