第六話
Subject: 【報告】連結の仕方について
From:nyantama@silvervinekingdom.org
Date:2013/11/03 20:11
To:king@silvervinekingdom.org
シルバーバイン王国
親愛なるにゃんこ大王殿
エンジニアのにゃんたまです。
しばらく報告をしておらず、申し訳ありません。半年も空いてしまいました。日本は夏と冬の気温の差が大きくて大変です。でもこの間の季節は魚もおいしいし、あらゆる食べ物がたくさんあります。特にキノコというものがたくさん生えます。ムウさんとミーさんが、キノコの生えている森を教えてくれまして、においをかぎに行きました。すごくいいにおいがするキノコがあるのです。
さて、タワーですが、やはり一枚ものから切り出すと、強度的にもデザイン的にも申し分のないものができるのですが、材料と輸送のコストがかなりかかってしまいます。また、決まった形や大きさになるので、各家庭の広さに合わせることができません。逆を言えば、運ぶときは小さくして、それを連結して組み立てれば輸送費は下げられるのと、自由に大きさが変えられるように連結できれば、各家庭の希望のものが作れるはずです。また、小さなものであれば、比較的安い小さな工作機械で作れるので、低コストです。
日本古来の技術「幅はぎ」
そこで、板と板を連結するということの研究を始めました。昔から日本には、「幅はぎ(はばはぎ)」という方法で、狭い板を連結して広い板にする方法があります。さらに進化したはぎ方がありました。
・板と板の側面に接着剤を塗って、そのまま張り合わせる「いもはぎ」
・板ではなく、小さな棒(ダボ)を間に差し込む「だぼはぎ」
・片方の板に溝、もう片方の板に突起を作り、それを差し込んでつなぐ「さねはぎ」
・その応用で、両方の板に溝を作って、間に繋ぐための細い板を差し込む「雇いさねはぎ」
いろいろあります。
接着剤の強度があまりなかった昔は、色々複雑なかたちをした幅はぎがされていたようですが、加工の手間がかかるので、現代では下火にはなっているようです。でも、全く使われなくなったかというとそうでもなく、たとえば、雇いさねはぎの現代版で、ビスケットジョイントという方法があります。間に入れるのが細い板ではなく、お菓子のビスケットに似た板を入れます。ビスケットというよりも葉っぱの形といった方がわかりやすいかもしれません。
何もかもが連結に見える…
繋ぎ合わせたい板の側面に溝を掘り、このビスケットと呼ばれる小さな板を入れることでつなぎます。
さらに、ビスケットと溝を持ち合わせた構造にすれば、特別な部品なしで連結、組み立てが楽ですし、強度も上がります。
ただその発想はあったものの、具体的な形にするのに時間がかかりました。ビスケットが小さすぎると、ネコの体重を支えきれません。大きすぎると、それと同じだけの大きな溝をつくらないといけませんので、加工が大変になります。連結のたびにビスケットを挟むのではなく、その機能を持ち合わせるのが理想です。さねはぎと同じです。基本のかたちから、出ている部分と引っ込んだ部分が同じでなければなりません。
それからというもの、もう頭の中が、すべて図形になって、目に入るものすべてを繋げないか考えるようになりました。連結、連結の毎日です。カリカリすらも連結しそうな思考回路になります。
平面充填で多角形を作れ!
ある日、人間の姿をして、電車に乗っていた時のことです。
私は、電車の椅子に座るとしっぽがじゃまになるので、ドアのところで立つことが多いのですが、ある駅の壁に敷き詰められたタイルが目に留まりました。そのタイルは、銀行の地図記号のような、丸い形の側面をえぐったような形をしていました。90度ずつ回転させることで、一種類のタイルなのに、敷き詰められているのです。
ふっと、タイルの出っ張ったところがビスケットジョイントに、引っ込んだところが溝に見えたのです。
正方形のタイルではありません。でも、正方形を変形させて、出っ張っているところと、引っ込んでいるところが同じ形であれば、敷き詰められる、すなわち、平面になります。
90度ずらしてタイルを重ね合わせたら、お互いがビスケットジョイントであり、溝を持っている。溝を掘るのではなく、板を重ね合わせて溝を作ればよいのではないか。
ついに降りてきた!
そう気づいた瞬間でした。敷き詰めることを数学の世界では平面充填というようです。文献を読むと、平面充填ができる多角形は、三角形、四角形、六角形の3種類しかありません。基本の形をこれらの形、たとえば四角形の一辺に、出っ張りと引っ込みをつくり、それをかみ合わせてお互いを支えあう仕組みにすれば良いのです。
四角形は、ある辺を出っ張らせ、90度ずつ隣の辺を引っ込み、出っ張りを繰り返せばよいのですが、三角形は辺が3つと奇数なので、ある辺を出っ張らせ、引っ込ませる方法はできません。一辺を左右に半分に割り、その左右で出っ張りと引っ込みにすることで、組み合わせを作れば良いと思います。
しかも、そのつなぐ部分の大きさを同じにすれば、四角形と三角形の連結もできますから、多様な形をつくれます。
四角と三角の試作パネルが完成
レゴブロックというおもちゃは、シルバーバインのチビネコたちも使って遊んでいます。あれは、凸と凹の両方の機能を持ち合わせた一つの部品を組み合わせることでさまざまな形を作り上げることができます。同じように、組み合わせて連結できる仕組みを備えた板を作れば、好きな大きさや形に組むことができます。
そこで、四角形のパネルと三角形のパネルを作りました。三角形と四角形を繋ぐことができれば、多くの組み合わせ方があります。
かなり複雑な形状になりますが、レーザーカッターを使うことで、従来のドリルを使った加工に比べて数段正確な切り出しができます。王様も子供のころ、虫眼鏡を使って太陽の光で紙を燃やした経験があると思いますが、レーザーと呼ばれる決まった波長の光を集中的に当てることで、材料を焼き切ることのできる原理です。
くしくも、私が軍にいたときに開発したレーザー砲と基本的には同じ原理です。パワーが100万分の1でしかないだけで同じです。
新たなる課題発生
過去にシルバーバインの森を焼いてしまった私が、またレーザーを使うのかと心配させるかもしれませんが、この装置はめったに炎が上がることはありませんから、ご安心ください。もうあれから5年ほど経ちましたかね。叶わぬ願いだとは思いますが、シルバーバインの森が復活した様子をいつか見てみたいものです。
ただ、大きな問題が発覚しました。四角形や三角形では、後から平面を増やすことができないのです。例えば、4枚の四角形を使って、縦2枚横2枚というように連結しようとしたとき、最後の一枚は縦にも横にも差し込まないといけないので、足すことができません。
縦と横を同時に差し込むことができないと、後から一枚ずつ足していけないということです。惜しかったです。非常に残念ですが、別の形を考えます。
最近のミーさん
先日のことですが、ミーさんの様子を見に、物流センターに行きました。
いつもはいるはずのミーさんの姿が見えなくって、心配だったのでいつも寝床を覗きましたら、ビックリしました。ミーさんがお腹をまるめて苦しんでいるのです。すぐに診てみると、どうも胃けいれんのような症状でした。ちょっとだけキノコを食べちゃったそうです。慌てて持っていたシルバーバインのまたたび、特にとっておきの一本を与えると、ようやく落ち着いてきました。
心配だったので、しばらくそばにいることにしました。いろいろ話せました。
ミーさんが「なぜ、そんな高級なまたたびを持っているの?」と聞くので、ついついシルバーバインの出身であること、そしてエンジニアとして白猫族との闘いに使っていたレーザー砲の開発のリーダーをしていたこと、王様から新兵器完成のご褒美にこの最高級のまたたびをもらったことを話してしまいました。
ミーは、そんな大事なものをくれたことにありがとうとお礼を言い、四葉のクローバーをくれました。四葉のクローバーは珍しくて、持っていると幸運がやってくるそうです。
また進捗がありましたら、報告いたします。
愛をこめて にゃんたま
著者:にゃんたま
写真②③⑧:渡部久