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トムとジェリーは「保護猫」でした。現在は埼玉県の一条さん(仮名)一家の元で暮らしています。

トムとジェリーが一条家にやってくるまでのいきさつをお話ししましょう。

*
*

とある街の工場の広い敷地の中で野良猫が繁殖していました。

敷地内での糞尿被害に悩まされ、出荷する予定のダンボールを開けると母猫が仔猫を産んでいたり… 企業にとって深刻な問題です。やむなくとった対応策は「駆除」でした。保健所への持込みです。次々と乳飲み子が持ち込まれていきます。当然、殺処分の対象になります。そのまま引き取る自治体側にも問題があったと思うのですが、その話は今回は触れません。

駆除という方法を選択した企業を、一概に責めることはできないと思います。会社にとっては死活問題ですし、勝手に棲みついて勝手に繁殖したと言えなくもありません。まあ多少、餌をあげたりはしていたのかも知れませんが。これはこの場所に限らず一般的な住宅地でも本当によくある話です。

問題は、猫が棲みつくと恐ろしいほどのスピードで繁殖するということへの危機意識の足りなさと、それを防止するための方法を調べようとしなかった点にあると思います。

組織の中においては、例えば通常の業務などにおいても、一旦運用フローなどが決まって継続してしまうと、何の疑いも持たずにそのまま続けてしまう傾向はあると思います。「決めるのは上の管理職の人」と思ってしまう悪しき習慣です。でも組織の外からちょっと見てみると、明らかにおかしいよね? と思うことは多々あります。外部の人間が、ほんのちょっと指摘するだけでガラリと改善される事もあるかも知れません。

*
*

「駆除するよりももっと良い方法がありますよ」

そう言って、その企業に乗り込んでいった人たちがいます。保護猫カフェを経営する方々や個人で保護活動を続けている方々。彼らは、駆除という方法しか知らないこの企業に、TNRという繁殖制限の方法を教えました。

「餌をあげるから増えるんじゃない、不妊・去勢手術をしないから増えるんです」「まずは手術をして繁殖をストップし、里親さんを探していけば徐々に減っていきます」

企業側にとっても、このままエンドレスで保健所への持ち込みを続けるよりも収束に向かったほうが得策のはず。実は元々が動物好きの人たちでもあったようで、意外とあっさり受け入れられ、TNRの費用までも全額負担してくれるという結果に。

つまりは単に対策の方法を知らなかった、本当にただそれだけなのです。知らないのなら教えてあげればいい。これほど単純な意志の疎通ができないばっかりに、各地で起こるトラブルのなんと多いことか。

その企業はその後とても協力的になり、耳カットがない(未不妊手術)新顔が迷い込んで仔猫を産んでいたりすると、連絡をくれるようになったとのことです。

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そうなってから、その敷地内で産まれたのがトムとジェリー(とあと1匹の3兄弟)です。連絡を受けたMさんが一旦保護し、その後に埼玉県富士見市で猫の保護活動をする任意団体「富士見さくらねこ応援団」の元へやってきました。そこのメンバーの、職場の同僚の妹が一条さんだったのです。まさに命をつなぐ善意のリレーです。人の手から人の手へご縁がつながり、幸せに暮らせる家にトムとジェリーはたどり着きました。2016年6月のことです。

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*

一条家は長男、姉妹、両親の5人家族。元々動物好きの一家で、14年前から犬を飼っていました。ショップで売れ残り、半額で販売されていた子犬をご主人が可哀想に思い買い取ったとのことです。その犬は昨年、13歳で亡くなってしまいました。ペットロス状態になった一家の元へ、トムとジェリーはやって来たのです。

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「もう可愛くて可愛くて! スマホの中はトムとジェリーの写真でいっぱいなんです」
「娘は朝起きたら真っ先にトムジェリを探すんですよ(笑)」
と語る一条さん。

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一番猫たちに甘いのはご主人だそうです。ショップで売られる動物たちを可哀想に思い、次に飼うときは保護犬か保護猫と決めていたそう。

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一歩間違えば処分されていたかもしれない小さな仔猫は、何人もの人の想いにつなげられて、かけがえのない家族の一員になりました。すべての猫たちに同じような素敵なご縁があることを願わずにはいられません。

 

著者:保護猫写真家 ねこたろう

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トムとジェリーは「保護猫」でした。現在は埼玉県の一条さん(仮名)一家の元で暮らしています。

トムとジェリーが一条家にやってくるまでのいきさつをお話ししましょう。

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とある街の工場の広い敷地の中で野良猫が繁殖していました。

敷地内での糞尿被害に悩まされ、出荷する予定のダンボールを開けると母猫が仔猫を産んでいたり… 企業にとって深刻な問題です。やむなくとった対応策は「駆除」でした。保健所への持込みです。次々と乳飲み子が持ち込まれていきます。当然、殺処分の対象になります。そのまま引き取る自治体側にも問題があったと思うのですが、その話は今回は触れません。

駆除という方法を選択した企業を、一概に責めることはできないと思います。会社にとっては死活問題ですし、勝手に棲みついて勝手に繁殖したと言えなくもありません。まあ多少、餌をあげたりはしていたのかも知れませんが。これはこの場所に限らず一般的な住宅地でも本当によくある話です。

問題は、猫が棲みつくと恐ろしいほどのスピードで繁殖するということへの危機意識の足りなさと、それを防止するための方法を調べようとしなかった点にあると思います。

組織の中においては、例えば通常の業務などにおいても、一旦運用フローなどが決まって継続してしまうと、何の疑いも持たずにそのまま続けてしまう傾向はあると思います。「決めるのは上の管理職の人」と思ってしまう悪しき習慣です。でも組織の外からちょっと見てみると、明らかにおかしいよね? と思うことは多々あります。外部の人間が、ほんのちょっと指摘するだけでガラリと改善される事もあるかも知れません。

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「駆除するよりももっと良い方法がありますよ」

そう言って、その企業に乗り込んでいった人たちがいます。保護猫カフェを経営する方々や個人で保護活動を続けている方々。彼らは、駆除という方法しか知らないこの企業に、TNRという繁殖制限の方法を教えました。

「餌をあげるから増えるんじゃない、不妊・去勢手術をしないから増えるんです」「まずは手術をして繁殖をストップし、里親さんを探していけば徐々に減っていきます」

企業側にとっても、このままエンドレスで保健所への持ち込みを続けるよりも収束に向かったほうが得策のはず。実は元々が動物好きの人たちでもあったようで、意外とあっさり受け入れられ、TNRの費用までも全額負担してくれるという結果に。

つまりは単に対策の方法を知らなかった、本当にただそれだけなのです。知らないのなら教えてあげればいい。これほど単純な意志の疎通ができないばっかりに、各地で起こるトラブルのなんと多いことか。

その企業はその後とても協力的になり、耳カットがない(未不妊手術)新顔が迷い込んで仔猫を産んでいたりすると、連絡をくれるようになったとのことです。

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そうなってから、その敷地内で産まれたのがトムとジェリー(とあと1匹の3兄弟)です。連絡を受けたMさんが一旦保護し、その後に埼玉県富士見市で猫の保護活動をする任意団体「富士見さくらねこ応援団」の元へやってきました。そこのメンバーの、職場の同僚の妹が一条さんだったのです。まさに命をつなぐ善意のリレーです。人の手から人の手へご縁がつながり、幸せに暮らせる家にトムとジェリーはたどり着きました。2016年6月のことです。

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一条家は長男、姉妹、両親の5人家族。元々動物好きの一家で、14年前から犬を飼っていました。ショップで売れ残り、半額で販売されていた子犬をご主人が可哀想に思い買い取ったとのことです。その犬は昨年、13歳で亡くなってしまいました。ペットロス状態になった一家の元へ、トムとジェリーはやって来たのです。

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「もう可愛くて可愛くて! スマホの中はトムとジェリーの写真でいっぱいなんです」
「娘は朝起きたら真っ先にトムジェリを探すんですよ(笑)」
と語る一条さん。

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一番猫たちに甘いのはご主人だそうです。ショップで売られる動物たちを可哀想に思い、次に飼うときは保護犬か保護猫と決めていたそう。

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一歩間違えば処分されていたかもしれない小さな仔猫は、何人もの人の想いにつなげられて、かけがえのない家族の一員になりました。すべての猫たちに同じような素敵なご縁があることを願わずにはいられません。

 

著者:保護猫写真家 ねこたろう